デジタル化はイノベーションを牽引するもの?それとも、イノベーションそのもの?

Greg Freiherr|2020/03/14

デジタル化とは、言ってみればスイス・アーミーナイフのようなもので、周囲の状況によってその有用性が変わってきます。したがって、デジタル化によってテクノロジー開発が可能になることもあれば、デジタル化そのものが技術だと言える場合もあります。


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イラスト:Dmitri Broido

医用画像の分野でデジタル化とは、車体における車輪と建設現場における傾斜面の関係性に似ています。つまり、互いがなければニーズを満たせません。これは、テクノロジーもしくはワークフローのいずれか、または双方に関連しています。

デジタル化なしでは、MRIもCTも存在し得ないでしょう。しかし、デジタル化と呼ぶもの自体がテクノロジーなのか、もしくは開発を可能にする要素なのかを判断することは視点の問題であり、本質的に議論の余地があります。同様に、CTやMRIは診断プロセスにも劇的な変化をもたらしました。

最近の明らかな変化の中に、ワークフローの変革が挙げられます。これを可能にしたのはプロセスの自動化であり、特に精度を大幅に向上させる自動化技術の出現がありました。この技術が施設全体に導入された場合、時間の経過とともに業務全般の一貫性を高めることになります。自動化技術を継続的に取り入れていくことで、一貫性はさらに高められるでしょう。

デジタル化を医療のどの領域にどう組み込んでいくのかを正確に理解するには、まず、突発的もしくは段階的に起こる可能性のあるイノベーションとは何かを理解しなくてはなりません。イラストの車輪はその両方を示しています。また、イノベーションの歴史ははるか昔に遡ります。

車輪の概念そのものは変わっていませんが、その用途は変化を遂げており、当然その影響も見られます。古代には、馬の引く台に2つの車輪が組み込まれ、軍隊の機動性を大きく高めました。以降、アメリカの西部開拓時代を支えたワゴンが現れ、世界中で社会のあり方を変えた自動車が登場しました。

医用画像の分野では、デジタル化によって漸進的イノベーションと突発的イノベーションの両方が成し遂げられています。たとえば、MRIやCTの誕生といった画期的なブレークスルーもあれば、X線装置のように徐々に改良が進み進化していくものもあります。X線がいまやデジタルX線へと改良を遂げたように、他のモダリティでも同様の進歩が続いていくでしょう。AI(人工知能) の発展についても同じように、視点次第で急速なイノベーションの例としても、漸進的なイノベーションの例としても捉えることができます。

このように、急速な、もしくは漸進的なという2種類のイノベーションは、まったく違うアプローチでカジノのルーレットをするのに似ています。つまり、1つの番号にすべてのチップを置くのと、テーブル全体にチップをまんべんなく置くのと同じような違いです。 この2つのアプローチをバランスよく取り入れる組織のことを「両利きの組織」 と呼び、一方では漸進的なイノベーションにつながるよう既存技術を積極的に活用し、同時に、急速なイノベーションを起こすような新しいアイデアを発掘する取り組みも進めます。

デジタル化がイノベーションをリードする?逆にイノベーションがデジタル化をリード? 答えは「状況によって異なる」です。場合によっては、イノベーションにはデジタル化が不可欠ですが、必ずしもそうでないこともあります。

デジタル化がイノベーションを加速させるのでしょうか?それとも逆に、イノベーションがデジタル化を牽引するのでしょうか? どちらが正しいとも、正しくないとも言えません。なぜなら、状況によるからです。

イノベーションにはデジタル化が必須な場合と、そうでない場合があります。
後者にあたるものの例として、免疫療法(イムノセラピー)があります。

免疫療法は患者自身の免疫システムを利用するもので、特にメラノーマや非小細胞肺がんを持つ患者に用いられてきました。また、RNAをベースにした治療法もあり、これは希少な遺伝的疾患からがんや神経疾患まで、さまざまな場面で有望視されています。さらに、近い将来現れるものとして薬理ゲノム検査(ファーマコジェノミクス)があり、患者のゲノム構成を判別し、それによって個別化医療への道を拓くと期待されています(ただし、テストから生じるデータはデジタル化され、すべてを解析するためのデジタル化技術も必要になります)。

また、既存のイノベーションの多くは、認識しているニーズを満たすために計画されたものです。イノベーションをさらに加速させるには、ニーズを満たすことのみならず、枠組みや視野をもっと広げて考えようという意志と決断が必要です。機械的血栓回収療法を例にとってみましょう。臨床試験では、閉塞した血管の血栓回収を行えば、脳卒中の発生から24時間経過しても助かる患者がいることを示しています。2018年、米国心臓協会(AHA)および米国脳卒中協会(NSA)は、脳卒中治療に関するガイドラインを改訂しました。

近年、医療サービスはバリューに基づくものへと移行を遂げており、デジタル化はそれに深く関わってきました。この傾向はますます強くなっていくでしょう。したがって、今後もデジタル化によって技術発展が可能となることもあれば、これまで同様、デジタル化自体がテクノロジーだという見方もできるでしょう。繰り返しになりますが、デジタル化は、突発的イノベーションと漸進的イノベーションの両方を支えてきました。デジタル技術を活用する目的はただひとつです。患者のために、費用対効果の高い医療を効率的に実践したい、という思いです。

つまり、単にデジタル化の風潮だからという理由ではなく、バリューに基づいた医療を実践するために技術を必要とする人(医療従事者、患者、政治家)の求めに応じたものだといえます。また、これらのテクノロジーを取り入れると、おのずと業務プロセスにも影響を与えます。

たとえば、クラウドコンピューティングの場合、ソフトウェアの運用、保守、更新などをクラウド上で効率的に行うことで、現場スタッフの作業を軽減できます。こういった技術を活用すれば、労働力及び機器類などの支出も削減でき、ひいてはヘルスケア全体のコストを削減できるという潜在力も秘めています。また、クラウドベースでのプロセス管理は、スケジュールを守り、ワークフローを改善するなど、よりスムーズな進行を可能にします。

また、専門技術者のパフォーマンスをクラウドを通じて収集・分析することができ、その結果、画質の向上、放射線被ばく量の低減、コスト削減など、さらなる効率化に貢献します。これらは結果的に、ペイシェント・エクスペリエンスの向上にもつながるでしょう。また、患者の位置決めなどを改善するために、撮影装置にスマートアルゴリズムが組み込まれている例もあります。

医療のどの領域にどうデジタル化が適応するのかを認識するために、イノベーションそのものを理解しなくてはいけません。

ひとつ留意しておきたいのは、デジタル化は比較的最近の技術開発だということです。したがって、デジタル技術の継続的なイノベーションと、それによる変化が今後もずっと保証されているとは限りません。将来、デジタル化は「未知の」テクノロジーによって影を落とす可能性すらあるのです。例えば、ペニシリンの開発と、その後の抗生物質の登場は似たような事例です。

イノベーションにデジタル化は必ずしも必要ではないかもしれませんが、破壊的思考は欠かせません。メインストリームから逸れて発想することは、いま現在使用されている技術にはない、改善点を伴ったまったく新しい技術を生み出すでしょう。漸進的なイノベーションを目指す際にも、破壊的な考え方は、既存技術の改善へとつなげられるでしょう。

どのタイプの思考も、一連のケアの流れ に影響を及ぼし、迅速な診断法と治療法の開発という本来の目的達成を支えるでしょう。イノベーションの目的とは、こういった連続性に基づく問題を解決することにあります。

たとえば、急激なイノベーションの中にAIのスマートアルゴリズムによって構築されたデジタルツインがあり、患者それぞれの生体構造や生理機能をシミュレートします。患者データから構築されたツイン(双子)は、ケアの流れ全体を通して患者に寄り添い、患者本人がリスクを冒すことなく難しい臨床的問題に答えることができます。リアルタイムに収集した情報をInternet of Medical Things (IoMT: 医療分野におけるモノのインターネット)を使って、生身の患者にそっくりなデジタルツインを創りだすことも可能になるでしょう。

すぐには実現しないかもしれませんが、実現可能性が高いものに臨床決定支援 (Clinical Decision Support: CDS)というものがあります。自動運転にクルーズコントロールが搭載されているのに似ていて、CDSはきわめて目前にある機能であり、いまある技術で「実行可能」です。しかも、オペレーションに必要な情報もすでに得ています。

デジタルツインとCDSに搭載されているスマートアルゴリズムは、AIの一種で ディープラーニング (DL)に関連しています。これらDLアルゴリズムは、臨床データを数十、数百、または数千もの階層に「ニューラルネットワーク」として分割し「学習」します。これを繰り返し経験することで、人の目には明らかでないパターンを発見し、これまで一般的だとされてきたプログラムを組むのではなく、抽出されたデータをもとに、どのような意思決定をするかを学びます。

ところが、このようなルールを考え出すだけでは、AIで成功したとは言えません。AIを応用することで、医師、スタッフ、そして最も重要な患者の日常生活にとって、違いをもたらさなければならないのです。

たとえば、医療においては術者をガイドし患者のポジショニングを調整するといったワークフローの自動化が挙げられます。他にも、スマートアルゴリズムを使用すると、高速で画像の再構成を行うことができるほか、医師が臨床上の決定を下すサポートもできます。

このような改善が起こるのは明らかかもしれませんが、ケアの流れの中では、測定可能な改善でなければ成功したと言えません。これがどのようなものなのかは簡単に把握できます。たとえば、AIによるポジショニングガイドを活用すると、患者の待ち時間が短縮されたり、放射線被ばく量を低減したり、画質を向上させることにつながります。これにより、迅速かつ正確な診断が可能になり、患者にとってはパーソナライズされた治療をいち早く開始できる、というメリットがもたらされます。

同時に、検査時間の短縮化によって生産性が向上すれば、1日の検査件数を増やすこともできるでしょう。これは医療機関の収益向上につながります。スケジュール管理の効率化とバックログの削減により、ペイシェント・エクスペリエンスの大幅な改善も見込まれます。

バリューに基づくヘルスケアに移行していくにつれ、医療機関とメーカーは、患者ベネフィットを高めつつコストを削減するよう求められます。以前は対極にあるとされていたこの目標を達成する手段としてデジタル化があるのですが、つねにデジタル化がイノベーションに必須というわけではありません。免疫療法から血栓回収に至るまで、現代医療をもってしても、デジタル化に依存しない例は数多くあります。しかし、イノベーションにおいてデジタル化の役割は重要性を増すばかりです。

いずれデジタル化は周囲に溶け込んでしまい、これまでのように明確な役割を持たなくなる日が来るかもしれません。デジタル化によってAIなど他のテクノロジーが開発できるようになった場合は特にそうです。存在が明白でなくても、効果は明らかにある、というものになるでしょう。

近年、医療におけるバリューとは、患者にとってより安全で快適なケアを、効率的かつ効果的に、また納得いく価格で提供し、より優れた臨床成果を得ることを意味するようになってきています。

そのため、少なくとも現時点では、デジタル化は重要だと考えられています。


デジタル化:Digitalization
データをアナログ形式からデジタル形式に変換すること。または、既存の業界システムと接続し、システムやプロセスを合理化するコンピューターの統合技術

人工知能:Artificial Intelligence(AI)
コンピューター基盤の機械学習技術のことで、複雑な問題を迅速に解決するため、知識情報をもとにした意思決定の自動化を可能にする

両利きの組織:Ambidextrous Organization
既存の資産をもとに効率的になるのと同時に、新しいテクノロジーやチャンスを探索するというビジネス能力や戦略

破壊的思考:Disruptive Thinking
これまでの型ややり方にとらわれず、市場ソリューションや価値をまったく新しい方法で創造することを受け入れるというイノベーション哲学

ケアの連続性:Continuum of Care
統合ケアシステムのことで、患者を長期にわたってトラッキングし、必要に応じてさまざまなレベルの医療サービスを受けるようガイドする

デジタルツイン:Digital Twin
センサーによって有形資産をバーチャル化したもので、仮想世界と現実の物質理世界をつなぎ、データを実用的な洞察へと変換する

医療におけるIoT: Internet of Medical Things
医療ITシステム、デバイス、データなどがオンラインネットワークで相互につながり、診断からモニタリング、治療までを支援すること

臨床意思決定支援(システム): Clinical Decision Support (System)
医療提供者が治療の決定を下したり、患者ケアを改善するために、複数のデータを分析するよう設計された情報技術アプリケーション

深層学習:Deep Learning
AIを支える手法のひとつで、人工ニューラルネットワークと呼ばれる脳の構造と機能にヒントを得たアルゴリズム。従来の機械学習アルゴリズムでは見逃される可能性のある多層関係を特定できる


Greg Freiherr

Imaging Technology News(ITN)のコンサルティングエディター。過去30年にわたり医療業界の動向や技術関連の編集・執筆に携わる。医療業界、高等教育機関、金融機関などでコンサルタントとしても従事。