
かかりつけ医の経営戦略
~成功の秘訣を紐解く~
いしぐろ在宅診療所岡崎では、在宅医療の現場で患者さんの状態をより迅速に判断し、適切な治療介入を行うために必要な手段として、ハンディタイプの血液ガス分析装置が活用されています。同院への装置導入を提案し、実際に最も活用している循環器内科医の亀島啓太先生と、院長の石黒剛先生に、装置導入の背景、活用の実際や今後の展望についてお話を伺いました。
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患者さんの状態を現場で的確に判断するための手段として
血液ガス分析装置を導入
亀島 私が在宅医療に取り組み始めてから、患者さんがどことなく体調が悪そうに見えるものの理由がはっきりせず、このまま在宅管理の継続で問題ないのか、病院に紹介して入院する必要があるのか、判断に迷う状況にしばしば直面しました。在宅療養している患者さんを病院に紹介して、結果的に入院の必要なしと判断されて戻されるのは誰にとっても負担にしかならないので、できるかぎり現場で的確に判断したいという思いがありました。そのための判断材料が得られる医療機器として必要性を感じ、導入を提案したのがハンディタイプの血液ガス分析装置でした。血液ガス分析については、病院勤務医だった当時に有用な診断情報が得られたケースを多く経験していたため、有意義な検査だと考えていました。
血液ガス分析装置が在宅医療の現場でとりわけ有用性を発揮するのは、症状を訴える患者さんからの電話を受け、往診で緊急対応する状況です。訪問診療時に予定の検査を行う目的で持参することもありますが、基本的にはいつ緊急の連絡が入っても使用できるよう、私の場合は診療中、常時携行するようにしています。
石黒 ハンディタイプの血液ガス分析装置は亀島先生が当院に着任してから導入しており、豊田院では未導入なのですが、在宅療養患者さんの診療を現場で完結できるのは大きな魅力だと感じています。この装置がなければ、現場では採血のみ行ってきて検体を検査会社に送り、検査結果は翌日まで不安なまま待たなければなりません。そしてもし異常が見つかれば急いで病院紹介の手続きをすることになります。その場で結果が得られ、紹介の必要性の判断まで行えることの有用性は大きいと思います。
Hb低値で貧血を確認し病院紹介するケースは多い
HFNC・NPPVの適応判断も在宅の現場で可能に
亀島 在宅医療の現場で血液ガス分析装置のメリットを実感する具体的場面としてまず挙げられるのが、貧血の確認です。立ち上がるのもつらいと訴える患者さんに対し、その場で検査した結果、大きく低下したHb値から貧血状態を確認でき、迅速な病院紹介につなげられたケースをしばしば経験しています。血便や吐血といった貧血を疑える明らかな出血症状が無い場合には、血液ガス分析装置で得られる情報が判断の決め手になり得ます。
また、今後、血液ガス分析装置の活用を考えている場面として、HOTを適用している在宅療養患者さんの呼吸困難症状が悪化し、HFNC※1やNPPV※2の導入を検討する状況が挙げられます。これらの治療法の導入にあたっては、算定要件の一つとして動脈血液ガス分析の結果が基準を満たす必要があります。現場で血液ガス分析装置が使用できればその結果がその場で得られるため、入院することなくHFNCやNPPVの適応があることを判断でき、速やかにHOTからの切り替えを選択できると考えています。
※1 high-flow nasal cannula:高流量鼻カニュラ酸素療法
※2 noninvasive positive pressure ventilation:非侵襲的陽圧換気療法
電解質・代謝項目の測定は
薬剤投与量や輸液量の調整に有用
亀島 当院が導入したハンディタイプの血液ガス分析装置では、電解質項目や代謝項目の測定も可能であり、それらが有用性を発揮する場面もあります。例えば心不全患者さんに利尿薬を投与している場合、脱水状態や低カリウム血症に陥っていないかを電解質項目でチェックすることができます。また、代謝項目の測定結果から腎機能低下がみられた場合には、併せて高ナトリウム血症や脱水の有無を電解質項目の結果でみることができます。いずれも現場ですぐに薬剤投与量や輸液量などの調整につなげられることがメリットです。

患者さんに治療方針を理解してもらううえで
客観的データをその場で提示できるのはメリット
亀島 在宅療養患者さんは、しばしば自覚症状や自分の状態をうまく説明するのが困難です。そこで、血液ガス分析装置によってその場で客観的データとして得た結果を見てもらうことで、入院の必要性など治療方針を理解したうえでの妥当な選択をしてもらいやすいと感じています。また、結果から患者さんの状態が悪く死期が近いと予測される場合に、そのデータを提示することで状況を理解してもらい、在宅看取りの話までできることがあります。現場で血液ガス分析装置が使用できない場合は、検査会社からの結果報告を受けてから電話で説明せざるを得ないのに対し、その場で客観的データに基づき、患者さんと対面で説明できるのは大きなメリットだと思います。
石黒 当院において血液ガス分析装置の使用経験が蓄積してきたなかで、この装置での測定結果と、採血検体による外注の血液検査の結果とが予想以上に一致していることも分かってきました。現状ではHbA1cなど、外注の血液検査が必要な検査項目もあるため、両者を併用している状況です。しかし、基本方針として業務を極力シンプルにしたいと考えているので、もし血液ガス分析装置の活用で外注検査を省略できるなら検体提出の業務負担も減ると期待でき、好ましいと思います。
装置選定理由の一つは故障しにくい構造
充電以外にはメンテナンスの手間もかからない
亀島 現在、当院で使用している血液ガス分析装置の選定理由としては、一つには先ほど述べたように一般的な血液ガス分析の項目以外にも測定可能な項目があり、判断材料を得るうえで有用と考えられた点が挙げられます。加えて、血液検体は装置本体には接触しない構造になっているため、詰まりなどの故障が起きにくいと予想されました。
石黒 実際、導入以降、装置本体の故障にはほぼ悩まされていません。訪問先に持ち運んで使用する機器である以上、耐久性の高さは重要だと考えています。また、私の場合は、サイズが小さく楽に持ち運べる携行性の高さと、価格がエコーを超えないリーズナブルな設定であったことも大きな評価ポイントでした。
亀島 装置の日常的な運用に関しては、充電さえ確実に行っていれば清掃やメンテナンスも特に必要なく、楽に取り扱えます。ただ測定カードの保管条件が15 ~ 30℃なので、夏場はバッグ内で保冷剤を使って冷却し、高温の車内には放置しないなど、温度管理に注意を払っています。
在宅医療の現場では血液ガス分析装置などの
POCTの積極活用が進むと予想される
亀島 在宅医療の現場で、エコーや血液ガス分析装置によるPOCT(point of care testing)は重要な存在になっていますが、病院でも入院患者さんのベッドサイドでPOCTが活用されることは一般的になっています。そのため、病院勤務医から在宅医療に参入する医師のなかには、もともとPOCTになじみがある方も増えてきているので、そうした方は診療方針の判断材料として在宅医療にPOCTをより積極活用しようと取り組んでいくと予想されます。CT検査、MRI検査などの画像検査を除けば、在宅医療で提供できる診療の質は、病院との差は小さくなっていくのではないかと思います。
石黒 経営者の視点で言うと、POCTの検査機器は持ち運びに伴って一定の確率での破損や故障が想定されるため、修理や交換のコストがかさむリスクを懸念せざるを得ません。先ほど述べたように機器には耐久性の高さを求めたいですし、故障時に補償されるプランなど、在宅医療のニーズに合ったサービスの提供もメーカーには期待したいです。
また、血液ガス分析装置のさらなる活用を考えた場合、電解質項目や代謝項目の測定が血液ガス分析に加えて診療報酬算定されるかどうかについては、地域性もあり、レセプトが返戻される可能性も想定しておく必要があると思います。
亀島 診療報酬算定の問題さえクリアされるなら、在宅医療のより多くの場面で血液ガス分析装置を積極活用していきたいですね。
(2024年10月31日取材)
販売名: エポック測定カード BGEM 届出番号 13E1X80031000052

