スムーズな連携と緊密な情報共有を実現するハートチームがハイブリッド手術室で積極的にSHD治療を展開

山形大学医学部附属病院 循環器内科

2022-08-12
Daiichinaika-YamagatauniversityHP

第一内科教授 渡辺 昌文 先生(右)、助教 田村 晴俊 先生(左)

臓器横断的なチーム医療を推進し、山形県の医療の最後の砦として先進医療を提供している山形大学医学部附属病院。第一内科に属する循環器内科でも、スムーズな連携と緊密な情報共有を実現しているハートチームで、TAVIをはじめとする先進的なSHD治療に積極的に取り組んでいます。今回は、内科・外科の垣根のない風通しのいいハートチームによるハイブリッド手術室の効果的な活用などについて、第一内科教授の渡辺昌文先生と助教の田村晴俊先生にお話をうかがいました。
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第一内科教授 渡辺 昌文 先生

渡辺 先生 第一内科では現在、循環器内科と呼吸器内科、腎臓病・膠原病内科に加えて、呼吸器関連の一部の感染症を担当するなど、地域医療・高齢者医療において幅広い領域を担うとともに、山形県医療の最後の砦として、最高水準の高度医療の提供に努めています。循環器内科も同様に、リハビリや昼間の心筋梗塞への緊急対応といった地域医療から、カテーテルアブレーションやストラクチャーインターベンション、重症心不全への対応といった高度医療まで、心臓移植以外はほぼすべての循環器治療に対応できる体制となっています。

田村 先生 TAVIや経皮的僧帽弁クリップ術、経皮的左心耳閉鎖術などに対して、循環器内科、心臓血管外科、麻酔科、看護師、放射線技師、臨床工学技士、療法士で構成される「ハートチーム」で定期的にカンファレンスを行いながら、入院から治療、リハビリ、退院までを連携して治療にあたっています。当院は循環器内科病棟と心臓血管外科病棟が同じ棟に集約されているため、担当科が変わっても患者さんが移動する必要がありません。また、内科医と外科医が同一の病棟にいることで、垣根のない風通しのいい関係性が築かれ、スムーズな連携と緊密な情報共有が実現しています。そのため、術前診断から治療、術後の管理までが非常に円滑で、患者さんにとってもいい環境になっていると思います。

渡辺 先生 私はハートチームができてから着任したのですが、ここまで内科と外科が協力的な病院というのは見たことがありません。風通しのいい協力体制がとても印象的で、それが今もなお発展し続けているというのがとても素晴らしいことだと感じています。また、日本の病院では虚血性心疾患のドクターがPCIなどの延長上でSHD治療を行っていることが多いと思うのですが、当院のSHD治療ではベースに心エコーがあるため、病態についてより深く理解できているとともに、エコーチームとカテーテルチームが垣根なく連携できているところが大きな特色だと思います。各人がエキスパートな部分をしっかりと持ちながらも、それだけに固執していては物事がスムーズに運ばないので、皆で協力してやっていくという体制が伝統的にあるのが、当院の基盤であり、強みだと感じています。

田村 先生 TAVIを始めたのは2017年ですが、2016年にはすでに今後のSHD治療に向けてハートチームを組織していました。我々内科医が手術部に出入りすることはそれまでほとんどありませんでしたから、まずは手術部の方々に循環器内科のことを理解してもらい、信頼関係を築かなければなりません。そこで、まずは各職種のキーパーソンとなってくれそうな人たちに声をかけ、情報を共有することから始めました。ハイブリッド手術室での動線などもそれぞれの立場からの意見を取り入れてシミュレーションを行い、それを繰り返すうちに徐々に人間関係も整っていったという感じです。また、ハートチームの立ち上げが円滑に進んだ大きな要因として、外科の先生方の理解があったと思います。当時の第二外科の教授がハイブリッド手術室建設とTAVI導入の推進派であり、その必要性と重要性を強く訴えておられたという環境が、協力的なハートチーム構築の大きな原動力となりました。

渡辺 先生 何か困ったことがあれば心臓血管外科の先生が迅速に駆けつけてくれる、また、循環器内科は術後の閉胸と同時に患者さんを引き取って内科的な調整をして返すなど、give and takeで今ではお互いになくてはならない関係になっています。この信頼関係が築けたのも、当時の第一内科教授と第二外科教授の未来志向的な協力関係の教えがあったればこそだと感じますね。

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助教 田村 晴俊 先生

田村 先生 現在は第1週・第3週の月曜日の1枠と、第2週・第4週の木曜日の2枠を使ってTAVIや経皮的僧帽弁クリップ術、経皮的左心耳閉鎖術といったSHD治療に加え、全身麻酔が必要なS-ICDの植込みやデバイスのリード抜去術を行っています。局所麻酔下で行うペースメーカやICD、CRTといったデバイスの埋め込みは、ハイブリッド手術室が空いていれば使用するという形です。デバイスの埋め込みもできるだけクリーンな環境下で行いたいものの、あまり早くから予定を入れてしまうと他の診療科との兼ね合いもあり、手術部が上手く回らないといけないので、2~3日前に相談をして可能であれば使用するといったフレキシブルな運用としています。

田村 先生 画質もいいですし、Large Displayの画面が大きいので画像が綺麗にしっかりと見えるところがとてもいいと思います。特にTAVIでは人工弁を留置するときに1ミリ単位の調整が必要になってくるので、このくらい大きく見える高精細な画像でないと、逆にTAVIを行うのは難しいかもしれませんね。また、事前に撮ったCT画像と3D 画像を重ね合わせる機能は当院ではまだ使っていないのですが、デバイスがどこを通っているか、血管壁を傷つけていないかなどを詳細に確認することで、血管損傷のリスクをより低減できると思うので、今後取り組んでいきたいと考えています。放射線技師さんからも「とても高性能で多くの機能があるが、逆にありすぎて使いこなすのに時間がかかりそう」と聞いていますので、今後はお互いに検討を重ねながら、有用な機能を使いこなしていければと考えています。アームの動きに関しては、心カテ室のアンギオ装置と違って、予想できないような少しエキセントリックな動きがありますね。当院のハイブリッド手術室の設計の問題なのかもしれませんが、アームが頭側に回転するときにエコーの先生にあたりそうになったり、エコーの先生と麻酔科の先生のワーキングスペースが窮屈になったりするので、少し注意と工夫が必要だと感じています。

田村 先生 現状ではTAVIや経皮的僧帽弁クリップ術を行う場合、高齢もしくは何らかの併存疾患により外科的手術が困難だと判断される人が適応となっていますが、今後、治療の安全性が確立されていけば、適応が若年層にも広がっていくのではないでしょうか。若年層に行うのであれば、手術の安全性だけでなく、術後の長期的な経過についても考慮しなければなりません。TAVIであれば人工弁の耐久性ですね。現在ではまだ10年以上のデータは出ていませんので、留置した人工弁の機能が劣化してきた際にValve-in-Valve法で人工弁をもう1枚かぶせることができるかなど、先を見据えた治療方針が必要となってくるでしょう。若い内にSHD治療を受けるべきか、やはり外科的手術を先行した方がいいかなど、今後は個々の患者さんについての包括的なディスカッションが重要となり、よりハートチームのチーム力が求められる時代になっていくと考えています。

田村 先生 PCIとSHD治療を同時に行った方がいい症例もあるのですが、現状のハイブリッド手術室のイメージングシステムでは、アームの振り角度に限界があるのと、透視が1方向からしか見られないということで、難しいPCI症例のケースでは、やはり同時手術はためらってしまいます。循環器内科医の立場からすると、もう少し心カテ室のアンギオ装置に近い性能を装備してもらえれば、ハイブリッド手術室でのPCIとSHD治療の同時手術もやりやすくなるのではないかと思います。また、SHD治療は細かい操作が多く、透視も多く使うので、どうしても放射線量が増えてしまいます。その際のエコーを担当する医師の被ばく量が高いと最近問題になっていますので、術者だけでなく、エコーの先生や麻酔科の先生の放射線防護対策もしっかりと充実させていってほしいですね。

渡辺 先生 最近は特に、働き方改革や医療安全が病院にとっての大きな課題となっています。ハイブリッド手術室においても、イメージングシステムを上手に活用して、より安全に、より効率よく、より迅速に手術を終わらせることを目指してほしいと思います。


(2022年5月9日取材)