京都医療センター ハイブリッド手術室

多診療科による活用でフル稼働する
ハイブリッド手術室

京都医療センター 整形外科

2022-09-12

京都市南東部の伏見区にある京都医療センターは、地域医療の発展に力を注いでいます。2021年12月に、さまざまなハードルを乗り越えてハイブリッド手術室を導入した同院では、多くの診療科が画像支援下手術を行い、非常に高い稼働率を誇っています。今回は、ハイブリッド手術室での脊椎手術を積極的に行っておられる整形外科医長の宮田誠彦先生にお話をうかがいました。

京都医療センター整形外科宮田先生

整形外科医長 宮田 誠彦 先生

当科は、人工関節置換術と脊椎手術を中心とした治療を行っています。2019年度の実績では、頸椎手術44件、胸腰椎手術105件、人工股関節置換術60件、人工膝関節置換術47件となっています。私自身は脊椎を専門としており、頸椎後縦靭帯骨化症などによる圧迫性脊髄症、変性側彎症などの脊柱変形、リウマチ性脊椎病変、骨粗鬆症性椎体骨折などの診断と手術治療に取り組んでいます。また、頸椎症性脊髄症や腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症、椎間板ヘルニア(頸椎~腰椎)、髄外腫瘍を中心とした脊髄腫瘍などの診断と手術治療も行っています。手術手技に関しては、ナビゲーションシステムや手術用顕微鏡を用いた高精度かつ低侵襲化を追求しています。また、医療の質管理(Quality Manage ment)も大切です。特に脊椎・脊髄疾患では、まずは正確な病態把握が求められ、これをなおざりにしていては手術を行っても良好な結果は得られません。この点を重要視して、術前の綿密な検査に基づく手術計画の立案、術後成績のフィードバックによる治療選択の再評価を行っています。

ハイブリッド手術室は主として脊椎分野で使用しています。2021年12月に稼働して半年が経過しましたが、同手術室で行った手術の殆どを脊椎固定術が占めており、最も多いのは頸椎後方固定術です。また、比較的症例数は少ないものの、圧迫性脊髄症などでピンポイントの除圧が必要な際の確認にも使っています。ハイブリッド手術室の導入によって手術件数全体に大きな変化が生じたわけではないのですが、他の京都大学関連病院との比較において脊椎手術における部位別の割合に差が出ています。たとえば、当センターは頸椎が約4割を占めており、他の施設の約2割に比べ突出して高いと言えます。頸椎はもともと椎体のサイズが胸腰椎に比べて小さく、椎体周囲には椎骨動脈や脊髄神経といった重要な構造物が多く存在し、重大な合併症を招きやすい部位であり、より精度の高い手技操作が求められます。頚椎手術の中でも以前より後方固定術の割合が高く、さらにハイブリッド手術室の恩恵を享受できるようになりましたので、今後も活用事例が増えていくことが予想されます。

 今回導入したハイブリッド手術室では、ナビゲーションシステムとのリンクによってauto registrationや術前画像と術中画像のフュー ジョン、術前画像に基づくsegmentationによる手術対象の顕微鏡術野への投影が可能となり、 その結果、手術時間が短縮しました。ただ、放射線技師を含め、関与するスタッフの技術向上と協力がなければ円滑な操作は難しく、使い慣れるまでには時間を要しました。また、操作に習熟した後もいくつかの画像情報を鵜呑みにすることなく検証する必要性を感じています。それはやはり、画像情報と実際の術野の情報との間に誤差や乖離が生じることがあるためであり、その原因も含めて追究することがハイブリッド手術室を使った脊椎手術の高精度化に繋がると考えて います。考えられる因子は多様であり、例えば、頸椎ではほんの僅かな開創器のかけ方の差が精度に影響してしまいます。ハイブリッド手術室の使用による時間短縮は、精度の向上を伴って初めて歓迎すべきものと考えています。

 画質はX線透視画像、3Dイメージングで得られる術中CT画像ともに高く評価しています。脊椎における固定術では正確にスクリューを打つために骨の微細な画像を必要としますが、 ARTIS phenoの場合はX線透視画像によって状況を詳細に把握できます。特に、使い慣れてきてわかったのは術中CT画像の素晴らしさであり、このことがスクリューの適切な設置に繋がっています。また、X線透視装置としてみても、 例えば、骨粗鬆症患者さんの骨梁、椎体や椎弓根の輪郭などは、予想していた以上に鮮明に見える印象を持ちました。一方、アームについてはそれ自体が巨大であり、戸惑いがあります。例えば、患者さんの側面X線透視を行っている際には術者や助手がアームとベッドの間に入ることが難しいこと、器械出しの看護師と術者の間にアームが位置する形になり受け渡しの妨げになることなど、ハード面での改良の余地が見受けられます。

 当センターでは、当科以外にも心臓外科、循環器内科、脳神経外科などがハイブリッド手術室を使っています。当然のことながら、手術する部位も術式も異なりますので、それぞれの手術におけるニーズも違ってくると思います。それは、整形外科領域だけで見ても明らかです。 例えば、骨は硬く、それ自体が術中に形態を変えることはありませんが、脊髄は硬膜の切開により微妙に変化します。ましてや、循環器系や脳神経系では手術対象となる軟部組織の術中変化がさらに大きいと考えられますので、精度向上を追求する際のハードルの高さは整形外科領域とは全く異なると想像しています。この点を考慮した場合、ハイブリッド手術室の将来的な方向性には「汎用性の追求」と「専門性の 追求」の 2つが挙げられるのではないでしょう か。仮に、脊椎手術に特化したハイブリッド手術室をつくるとしたら、最も使用頻度の高い、標準的で確立された術式を意識したものになると思います。現状では、変性疾患や急性外傷に対する脊椎後方固定術がこれに該当します。 手術テーブルの配置などを変更することなく、 頚椎から腰仙椎、骨盤までシームレスに対応可能となれば理想的です。個人的には、このような専門性の高いハイブリッド手術室があってもいいと考えています。

 今回のハイブリッド手術室の導入に当たって、 こちらから要請シグナルを送った際、即応してくれた点がとても印象的でした。Siemens Healthineersという企業の人材育成、組織づくりの素晴らしさが感じられました。ハイブリッド手術室は導入時もさることながら、稼働してからも技術的な課題が出てきますので、今後とも迅速かつ懇切な対応を期待しています。 

(2022年6月30日取材)