
かかりつけ医の経営戦略
~成功の秘訣を紐解く~
2019年に愛知県豊田市で開院した、いしぐろ在宅診療所豊田(以下、豊田院)から分院する形で、2021年、隣接する岡崎市にいしぐろ在宅診療所岡崎が開院しました。在宅医療について、医療の選択肢として必要とする人が確実に受けられるものにしたいと話す院長の石黒剛先生に、同院が地域の中で在宅クリニックとしてどのような役割を果たすことを目指しているのか、お話を伺いました。
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愛知県岡崎市西部を主たる診療圏として開院
在宅医療の地域性により
隣接市からの患者紹介は限定的
当院は岡崎市西端の幹線道路沿いに立地し、いしぐろ在宅診療所の新たな診療拠点として開院しました。訪問する患者さんは末期がんの方が約2割、神経変性疾患を含むその他の慢性疾患の方が約8割であり、在宅療養を希望する方であれば疾患を問わず受け入れてきました。年齢は小児から100歳超までと幅広いですが、やはり80 ~90歳代の高齢者が大多数を占めます。
診療圏は岡崎市西部を中心に、東側の山間地を除いた市内全域に及んでいます。在宅医療の提供にあたっての原則的な距離要件となっている16km圏内には、岡崎市の西側の安城市も含まれているものの、実際は、安城市内在住の患者さんの紹介はほとんどありません。というのも、安城市の場合は在宅医療のネットワークが市内でほぼ完結する形で成立している状況だからです。地域の医療機関のほか、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションといった介護サービス関連の事業所が在宅療養を希望する患者さんの紹介元となりますが、自治体をまたいで安城市内の施設から当院へ、という紹介はわずかです。また、安城市在住の方の多くが受診する地域中核病院は安城更生病院であり、岡崎市内の病院に来る方は少ないため、岡崎市の地域中核病院からの紹介患者さんにも、安城市在住の方はほとんどいません。
じつは開院当初は、安城市全域も訪問範囲になると見込んでいました。というのも、当院開院前の豊田院では、豊田市の南側にある岡崎市の患者さんも一定数紹介があったからです。豊田市南部に位置するトヨタ記念病院の診療圏が岡崎市にも広がっていたため、同院から豊田院に紹介される患者さんには岡崎市内在住の方が含まれていました。そのため、当院開業後、安城市の患者さんの紹介が少ないことは少し誤算だったのですが、岡崎市の患者さんについてはこのように豊田院で診ていた方々を引き継ぐ形でスタートできたので、経営的には順調な状況を維持してくることができました。現在は毎日、医師4、5人がおのおの6~ 10人の診療にあたっています。

市内の地域中核病院と
介護サービス関連事業所を紹介元として
月に計約30人の新患を受け入れ
患者さん本人やその家族が当院のことを調べて直接、在宅診療を依頼してくるケースはまれです。在宅医療という選択肢がまだ地域の方に広く認知されているわけではないということだと思います。ただ、私の意見としては、当事者に知ってもらうことよりも、支援者の側、つまり地域の医療・介護関係者に知ってもらうことの方が重要です。全ての患者さんが在宅医療を必要とするわけではないなか、必要とする人に接する医療・介護関係者さえ在宅医療をしっかり認知してくれていれば、その人には在宅医療という選択肢が確実に届きます。支援者にすらたどり着けない生活困難者などもいることは社会的な課題ですが、現状、岡崎市内の地域中核病院、および介護サービス関連の事業所と当院との連携は良好に機能しており、月に計30人ほどの新規患者さんを紹介いただいています。
また、こうした連携関係を維持するため、紹介元への配慮は大切にしてきました。例えば、病院に紹介状を出す際は丁寧な記載を心掛けていますし、病院から逆紹介を受けた場合には、自宅に戻った患者さんと当院スタッフで写真を撮り、無事に家に帰れたという喜びや安堵を込めて、紹介状の返信とともに病院に送っています。このような気持ちを込めたやり取りを継続することが、紹介元との密な関係構築の鍵だと考えています。

患者さんの生き方や
人生観が垣間見える在宅看取りは
心を引くもの
当院では、終末期患者さんの自宅での看取りを重要なミッションに位置づけています。終末期患者さんのなかには、病院での入院治療を100としたときに、60の医療で十分と希望しているにもかかわらずADLが低下していて通院治療の選択肢が選べず、入院せざるを得ないという方がいます。そうした患者さんに対し、在宅看取りという選択肢を設けることで希望を叶えてあげられるうえ、病院の現場にかかる過剰な負担の削減、ひいては医療資源の効率的な利用にもつながっていくと考えています。そうした意味で、在宅看取りは、在宅医療が担っている社会的責務の一つだと私は思っています。加えて、患者さんの人生の最期に関わることができる看取りはシンプルに心を引くものでもあります。その方の生き方や人生観、家族や周囲との関わり方が垣間見えることで、1人の人間として素敵な方だ、看取りに携われて良かったと思えることもありますし、自分の今後の人生を考える手掛かりになると感じています。
また、病院での看取りと比べると、在宅看取りはあらかじめ死期のタイミングを予測して家族に説明できるので、最期のお別れの場も落ち着いた状況で設けられることが多いです。残された家族も大変な苦労をしながら看取りをやり切ったことに納得していて、私たちにも心から感謝してくれている、と感じることが多く、当院はそうした方々の支えとなる存在でありたい、と思っています。
販売名: エポック測定カード BGEM 届出番号 13E1X80031000052



