シーメンスヘルスケア・ダイアグノスティクス株式会社(東京都品川区、代表取締役社長: 森 秀顕)は、日本で初めて*1 肝臓の線維化進展の診断補助および慢性肝疾患患者における病態の進展予測を可能にする血液検査用試薬「ケミルミTIMP-1」を2023年8月29日より販売します。本試薬での測定値を用いて、強化肝線維症(ELF)スコア*2 を算出することで、慢性肝疾患への病態進展を予測します。
肝線維化を非侵襲に測定できるELFスコアへの期待
肝線維化は、ウィルス性肝炎や、自己免疫性疾患、過度のアルコール摂取、脂肪性肝疾患などにより肝臓が継続的に損傷を受けることで引き起こされ、進行すると、肝硬変、肝不全、肝細胞癌などにつながるリスクが上昇します*3 。日本肝臓学会が2023年6月15日に奈良市で開会した第59回総会において発表した「奈良宣言2023」の背景としても懸念されている通り、近年、アルコールの摂取が微量にも関わらず肝臓の病気が進行する「非アルコール性脂肪性肝疾患」(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)の潜在的な有病率の上昇が注目されています。全世界における有病率は全人口の約25%*4 、日本においても中高年層を中心に、潜在的な患者さんは2,000万人以上いると考えられています*5 。
現在、日本においてNAFLDの診断には、体外から針を刺す肝生検が主流となっていますが、肝生検は侵襲性の高さ、サンプリングエラー、合併症のリスクなどが課題とされています*6 。代わりにバイオマーカーを用いた、肝線維化の拾い上げや進度の推定も行われていますが、新たな指標として、肝硬変、肝細胞癌やその他関連疾患への病態進展予測を客観的に数値化するELFスコアが注目され始め、欧米においてはこのELFスコアを用いたNAFLDに対する新薬の開発も進められています。
横浜市立大学附属病院の消化器内科部長である中島 淳主任教授(横浜市立大学大学院 医学研究科 肝胆膵消化器病学教室)は、次のようにコメントしています。「近年、わが国をはじめ世界中で患者が増加している非アルコール性脂肪肝疾患患者では、将来肝硬変や肝臓がんになるハイリスク患者の拾い上げが医療現場で非常に重要となっておりましたが、これまで入院のうえで行う肝生検がゴールドスタンダードでした。そのため、グローバルレベルで肝生検によらないハイリスク患者の拾い上げの方法の確立が急務でした。血液検査や画像検査など、各種診断方法が開発されておりますが、血液検査においては、欧米でガイドラインなどで推奨されているELFテストが本邦では使えませんでした。また、現在多くの新薬開発が行われておりますが、その治療効果の判定にELFテストが用いられており、近い将来、新薬登場では治療効果の評価にも使われることとなるでしょう。日本でもようやくグローバルレベルでの検査ができるようになったということは、何よりも当該患者さんの福音になることと思います。」
日本で初めて承認された慢性肝疾患の病態進展予測適用とELFスコア測定
「ケミルミ TIMP-1」は、血清中の組織メタプロテアーゼ阻害物質(TIMP-1)を測定する試薬です。既発売の「ケミルミ ヒアルロン酸」および「ケミルミ PⅢP」と組み合わせて当社の免疫自動分析装置Atellica IMでの測定に使用されます。日本で初めて、肝臓の線維化進展の診断の補助および慢性肝疾患患者における病態進展予測に適用される試薬として承認され、測定された血清中の組織メタプロテアーゼ阻害物質(TIMP-1)、ヒアルロン酸およびプロコラーゲンⅢペプチド(PⅢP)の値を組み合わせて、肝線維化の進展および進展予測を表すELFスコアの算出を可能にします。
Atellica IMシリーズおよびAtellica CI1900で測定が可能な項目の1つとしてELFスコアが追加されることにより、医療機関は1回の血液検査でより幅広い検査・診断を行えるだけでなく、スクリーニングの段階で患者さんの肝疾患のステージに合わせた適切な2次診療先や治療先の紹介が可能になります。また、患者さんにとっても、疾患が疑われる段階あるいは進行していない段階で肝生検を受ける身体的な負荷の軽減につながる可能性があることに加え、大型の医療機関へのアクセスが悪い地域の方々に対するNAFLDの非侵襲スクリーニングの機会の拡大に貢献します。