乳がんスクリーニングの常識が変わる?

Martin Lindner|2020/03/13

トモシンセシスや乳房MRIといった新しい技術は、従来のマンモグラフィには成し得なかったことを可能にします。専門家たちは、これらの技術を統合すれば、より患者1人1人のリスクに対応したスクリーニング戦略に活用できると期待を寄せています。
マンモグラフィスクリーニングで、乳がんによる死亡率を25~40%ほど減少させられることがわかっていますが、乳がんは依然として、世界的に女性の主ながんの死亡原因であることに変わりありません[1]。現在、一般的にスクリーニングに活用されているデジタルマンモグラフィの感度には限界があり、全てのがんを検出できるわけではないからです。また一方で、成長が遅く、その時点では臨床的な治療の必要性がない腫瘍がマンモグラフィスクリーニングによって発見され、過剰治療につながってしまうこともあります。
現状のマンモグラフィスクリーニングがこのような課題を抱えていることから、多くの専門家が、乳がん治療にはより高度なアプローチが必要だと考えています。実際、2019年にウィーンで開催された欧州放射線会議(ECR)でも強調されていましたが、より高精度に乳がんを検出できる可能性は非常に高くなっています。特に、高品質な画像は、個々人に合わせたスクリーニング戦略と同様に、患者フレンドリーかつ効率的に、検出パフォーマンスを向上させることができるでしょう。また同時に、全ての国や環境において、同じソリューションを用意できないことは明らかであり、乳がんスクリーニング技術の継続的な開発が必要となっています。

3Dマンモグラフィとしても知られるトモシンセシスの活用は、このゴールを達成するための重要で斬新なステップです。スウェーデンで最近行われた集団スクリーニングの実証試験から、トモシンセシスを活用することで、従来のマンモグラフィよりも多くのがん性病変を明確に検出できることがわかりました―1方向からだけの撮影であるにも関わらず、です(従来のマンモグラフィでは2方向)。

1回のトモシンセシス撮影(MLO)でも、2回のマンモグラフィと2回のトモシンセシス撮影(CC+MLO)を組み合わせて読影するのと同等の検出成果を挙げることができると考えられます。しかも被ばく量も抑えられるのです[2]
さらに、この研究の第一人者であるSophia ZackrissonがECRで発表したように、トモシンセシスを活用すれば、従来のマンモグラフィよりも乳房の圧迫が少なくて済みます。これによって検査がより快適になれば、スクリーニング検査数も増えるでしょう。
トモシンセシスは2Dマンモグラフィよりも高精度です。しかし一方で、生成画像数が多い分、読影時間が増加することになります。一般的に広く活用されるようになるためには、AIによる読影サポートが重要となってくるでしょう。また、トモシンセシスがマンモグラフィより多くの腫瘍を発見できるだけでなく、成長の早い中間期がんの発見にも有効かどうかはまだ明らかではありません。「進行度の速い乳がんを発見することもまた、トモシンセシスでは困難です」と、Zackrisson氏も認めています。

多発性乳管内がん(IDC)および乳頭腫症
左乳房に触知可能なしこりがある41歳の女性患者。TiCEMは、MRIと非常に良好な相関関係を示し、乳癌の術前評価においてDBTよりも優れていました。
(画像を切り替えてご覧ください)
Luis Pina教授/医学博士、Navarra大学 /スペイン。
    

MRIの強みの1つがまさにこれです。独Aachen大学放射線科医Christiane Kuhl氏がECRで強調しましたが、乳房MRIは、幅広い年齢層、リスクグループにおいて、マンモグラフィよりも高精度な画像を生成できるだけではなく、中間期がんの大部分を検出することができるのです。中間期がんは、定期健診で検出されなかったにもかかわらず、次の検診までの間に急成長して自覚症状が出ることで発見される、特に成長速度の速いがんで、従来のスクリーニングでの検出は困難でした。

従来のマンモグラフィやトモシンセシスとは異なり、造影MRIを活用すれば、血管新生のマッピングや、がんが成長する可能性までも知ることができます。「MRIはおそらく、いま最も強力な乳がん検出方法です」とKuhl氏は言います。

専門家らは、こうしたハイレベルな画像診断アプローチを、パーソナルなスクリーニング戦略の実現に役立てるべきだと考えています。
基本的な考え方は、『受診者ごとのリスクレベルに応じたスクリーニングを行う』ということです。これにより、多くの健康な女性たちには無駄な検査を実施することなく、リスクの高い女性たちのがんをより確実に検出することができるようになるのです。
 


特に最近のリスク予測モデルは、年齢や家族の病歴といった標準的なリスク因子はもちろん、乳腺密度やその他様々な遺伝的性質までをも考慮したもので、今後の段階的スクリーニングの基礎を築くことができるでしょう[8,9」。現在この段階的スクリーニングはヨーロッパの複数の国で試験的に行われており、低リスクスコアの女性達は4年ごとにマンモグラフィ検査を、中~高リスクスコアの女性たちは1~2年ごとにマンモグラフィと場合によっては超音波検査を、そしてリスクスコアが非常に高い女性は毎年、マンモグラフィとMRIによるスクリーニングを受けています[10」。

このようなリスクレベルに応じたアプローチの成功を見込んで、Broeders氏は今後5~10年で、このスクリーニングプログラムは、一般的に活用できるまでに確立されるだろうと予測しています。しかしながら、多様なリスク群と、画像の精度差のため、国と医療システムによってそれぞれ異なるフレームワークが開発されることになるでしょう。そしてスクリーニングを成功させるためのモデル計算式も、最適なスクリーニング戦略のために活用されるでしょう。
一方で、患者とリスクに関して会話したり、カウンセリングを行うことは、パーソナルなスクリーニングプログラムを実施する際に極めて重要です[11]。「女性たちは、パーソナルなアプローチの概念に理解を示しており、それがどのように機能するかはもちろん、自分たちはリスクに対して何をすればいいのかを知りたいのです」とBroeders氏は言います。
たとえば、日常の生活スタイルが乳がんリスクに影響する可能性があります。エストロゲン受容体モジュレーターやアロマターゼ阻害剤などのホルモン剤の服用も、特に乳がんリスクが高い層の女性たちにとっては、重要な因子と言えます。

リスクレベルに合わせたスクリーニングは、ゆくゆくは乳がんの予防と早期発見をかねた、より包括的な健康プログラムに統合されていくべきでしょう。

 

Martin Lindner : ドイツのベルリンにいる科学作家です。