アルゴリズム:それは明日の医学を切り拓くすべて

Philipp Grätzel von Grätz|2020/03/16

人工知能(AI)と機械学習は、すべての医療分野にわたり、医学に人々の想像を超えた変革をもたらしています。放射線画像の評価に役立つアルゴリズムは始まりに過ぎません。AI は、医学のすべての分野で不可欠なツールになる可能性があります。

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写真:アンナ・シュロール(Gremlin/Getty Images)、フィリップ・フロイン

リビングルームで使う仮想アシスタントから高度な投資アルゴリズム、ソフトウェアベースのトラフィック制御から自動運転まで、AIや機械学習が語られない日はありません。このトピックは現在、政治レベルでも取り上げられています。中国は2017年7月に、次世代の人工知能開発計画を発表しました。2018年3月、フランスのEmmanuel Macron(エマニュエル・マクロン)大統領は、2022年までに政府がAIに合計15億ユーロを投資すると発表しました。2018年4月、英国政府は10億ポンドのAIセクターへの取引ポリシーペーパーを発表しました。5月にはスウェーデンもこれに続きました。ドイツ政府は、2018年末にAI戦略を発表しました。欧州連合においては、2018年4月に欧州委員会が欧州のAI戦略を策定し、1年後に欧州AI倫理ガイドラインのドラフトを策定しました。

医療現場においてはディープラーニング(深層学習)が時間のかかる仕事を処理することで、放射線科医の作業負荷を軽減します。
Bram Stieltjes、MD、研究コーディネーション部長、放射線医学および核医学クリニック、バーゼル大学病院、スイス

AIの進歩は医療の現場で見ることができます。革新的な企業や技術志向の研究機関は、予防から診断のスクリーニングだけでなく、治療や疾患マネジメントに至るまで医療のほぼすべての分野で高度なアルゴリズムを開発し、試験し、実装しています。同時に、規制当局はこのトピックに注意を向けています。2019年2月、米国食品医薬品局(FDA)は、医療用AIアプリケーションの承認に関してディスカッションペーパーを発表しました。ここで言うアプリケーションは更新に伴って、少しづつ改良される単純なアプリケーションとは異なります。このようなソリューションはすでに存在し、規制当局の承認を得ています。むしろ、新しいFDAイニシアチブでは、リアルタイムで学習しながらアルゴリズムを絶えず変更している高度なAIアルゴリズムを対象にしているもので、従来のソフトウェアソリューションの承認とは違った制度で管理されるべきものです。

FDAが現在取り組んでいる「静的」AIと「動的」AIの違いは、人工知能が非常に広く曖昧に定義された用語であることを示しています。今日、人々がAIについて話すとき、それらは通常、ディープラーニング、人工ニューラルネットワークを使用した特別な形式の機械学習を意味します。これは、囲碁の世界チャンピオンを破ったGoogleアルゴリズムを通じて知られるようになりました。しかし実際には、ニューラルネットワークは何十年も前から存在しているものです。最も大きく変わったのはコンピューターの計算能力です。スイスのバーゼル大学病院の放射線および核医学クリニックの研究コーディネーション責任者であるBram Stieltjes医学博士は、次のように述べています。「最も大きく変わったのはコンピューターの計算能力です。それにより、長い間存在していたアルゴリズムが実用化されました。」ニューラルネットワークのトレーニングに不可欠なツールであるグラフィックカードも、はるかに高性能になったのです。

ある特定の質問に対しては、放射線科医よりもアルゴリズムが優れているとされる放射線医学の分野で、このニューラルネットワークの学習(多くの場合、数万のデータセットが含まれます)は特に注目を集めています。ドイツ・マンハイムの University Medical Centre の Department of Clinical Radiology and Nuclear Medicine の Stefan Schönberg(ステファン・シェーンベルク)教授は、「放射線医学における数学的革命」について語っています。画像の分析はひとつの側面にすぎません、と彼は言います。ラジオミクスの時代には、アルゴリズムは高解像度を使用して多次元データセットを単一のボクセルまで細かくして精査します。「私たちは、画像を見ているのか、純粋に統計的なパラメーターを見ているのか、わからなくなっています」とSchönberg 教授は言います。

専門家の間では、メディアが広めているアルゴリズムが放射線科医に取って代わることに対する恐怖はありません。ドイツの Essen University Hospital の Institute of Diagnostic and Interventional Radiology and Neuroradiology の Micheal Forsting(ミハエル・フォルスティング)教授によれば、「大多数の放射線科医にとってAI は脅威ではなく、むしろ現場で役にたつもの」だと考えています。アルゴリズムは時間のかかる反復作業を処理し、放射線科医の日常の作業負荷を軽減します。「たとえば、ここEssenでは、脳の多発性硬化症病変箇所の計測を自動化しました。また、骨年齢を判断したり、脳卒中を早期に検出することにアルゴリズムを利用しています。」
今後数年間で、自己学習アルゴリズムが広範囲にわたって変化をもたらす可能性を持つ診断分野があります。もっとも近いのは、膨大なデータセットが生み出されるものの、すべてのデータが評価されたことがない病理学です。「最初のステップは、間違いなくAIのおかげで効率が上がることです」と、ドイツの病理学者連邦協会のイベントで、ドイツのベルリンにあるInstitute of Pathology, Charité のFrederick Klauschen(フレデリック・クラウセン)教授が強調しています。たとえば病理学者は、アルゴリズムが細胞核を数えるタスクを引き継いでくれるのはまもなくであろうと考えています。これにより、彼らはより複雑なタスクに時間を使うことができるようになります。
中期的には、Klauschenは、AIなしでは困難な分析など、まったく異なる評価に使用されるアルゴリズムを想像しています。たとえば、がん患者の複雑なバイオマーカーパターンを解析することにおいては、自己学習アルゴリズムが人間よりも優れているという兆候があります。これらのパターンは単一のパラメーターに代わり、どの患者が免疫療法に反応するかを予測するプレシジョン・メディシンに活用できます。 バイオマーカーに関しては、AIアルゴリズムは、臨床検査分野でのあらたな開発の引き金となる可能性があります。これは、病理学と放射線医学に続く3番目の主要な診断分野です。Siemens Healthineersの調査では、臨床検査室の管理職200人を対象とした回答者の10人中7人が今後4年間でAIが体外診断(IVD)分野に入り込んでくると述べています。また10人中9人はAIがヘルスケアに大きな長期的影響を与えると確信を持っています。回答者の2人に1人はすでに臨床検査医学でAIアプリケーションを使用していました。[1]

検査室では、検査プロセスをサポートするアルゴリズムに関心が寄せられています。たとえば、診断機器の検査室横断モニタリングシステムでは、障害が発生する前にAIが問題を検出できるため、予防的なメンテナンススケジュールを計画することが可能です。臨床面においては、アルゴリズムは臨床検査診断の意思決定に適しており、病理データと同様に、複雑なバイオマーカーパターンに基づく予測分析にも適しています。

特に有望な用途のひとつは、診断情報の総合的な分析です。アルゴリズムが臨床検査データ、電子カルテ、画像、および病理データを集めて分析します。University Hospital BaselのBram Stieltjes は、アルゴリズムが診断分野で臨床上直接影響をもたらすのは、このAIがサポートする「院内複数部門での連携」であると考えています。将来私たちは、診断情報の総合的なインテグレーターとして、パズルのすべてのピースをできるだけ早く完成させるように、診断部門間で緊密に協力していくことになるでしょう。」

継続的なニューラルネットワーク学習を通じて、機械学習は日々の臨床ルーチンにますます関与するようになっています。
左上から時計回り:Bram Stieltjes、MD、University Hospital Basel; Michael Forsting教授、Essen University Hospital, Germany;Frederick Klauschen教授, Institute of Pathology, Charité, Berlin;Stefan Schönberg教授, University Medical Centre, Mannheim

(患者の物語に耳を傾ける医療)

高度にデジタル化された技術分野である放射線医学、病理学、および臨床検査医学で医療AIに関する多くの議論が行われていることに驚きません。放射線医学分野に限定されない医療AIアプリケーションに取り組む“医学の新技術会議”(Emerging Technology in Medicine : ETIM)の年次大会・会長であるMichael Forstingは、この議論も過去の現象になると確信しています。長期的に見れば、Narrative-based and clinical medicine(患者の物語に耳を傾ける臨床医学)に比べれば、技術分野の変化はとても少ないでしょう。」

それはなぜでしょうか? 「単純なことですが、ほとんどの間違いは非技術分野で起こり、AIはそのエラーを減らすことができるからです」とForsting教授は言います。例として、 放射線科医は、うつ病の暫定的な診断を行うために、音声、顔の表情、姿勢を使用するアルゴリズムベースのアプリケーションを利用します。これらのアルゴリズムは、臨床試験で使われるケースもますます増えています。精神科医ではない医師が、特徴的な症状を呈する疾患に苦しんでいる患者を診察するような状況で、非常に役立つ可能性があります。

2019年のはじめ、米国とドイツの遺伝学者および生物情報学者は専門誌のNature Medicineに珍しい報告をしました。彼らは、稀な遺伝病を顔写真で検出するように学習させたDeepGestaltと呼ばれるアルゴリズムのネットワークを開発しました。200を超える遺伝病患者の17,000枚の画像を学習させたのちに、典型的な遺伝相談を受ける患者グループの合計502枚の顔写真を分析させたところ、10人の患者のうち9人で、最初の10の候補の中に正しい診断結果が入っていました。[2]

特に希少な遺伝性疾患をみる専門家がいない地域で、DeepGestalt は非常に役立つ可能性があります。「AI は、Narrative-based Medicine(患者の物語に耳を傾ける臨床医学)に、大きな改善をもたらすことができます」とForsting 教授は確信しています。


Philipp Grätzel von Grätz ベルリン在住。医師から作家へ転身。生物医学、医療技術、ヘルスケアIT、および健康政策が専門。

[1] 引用:Automating Muscle to Augmenting the Brain. How Artificial Intelligence Will Change the Clinical Laboratory(筋肉の自動化から脳細胞の増強までー人工知能は臨床検査室をどのように変えるか)2018年7月、ニューヨーク州タリータウンSiemens Healthineers / Siemens Healthcare Diagnostics Inc.Tarrytown NY
https://www.siemens-healthineers.com/news/mso-ai-willchange-clinical-laboratory.html
最終アクセス日:2019年5月14日

[2] Nat Med. 2019 Jan;25(1):60-64
 

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