各科の協力と手術部による適切かつ柔軟な運用で多くの診療科が活用するハイブリッド手術室を実現

山形大学医学部附属病院 脳神経外科

2022-08-11
脳神経外科准教授・手術部副部長  小久保 安昭 先生

脳神経外科准教授・手術部副部長  小久保 安昭 先生

臓器横断的なチーム医療を推進し、山形県の医療の最後の砦として先進医療を提供している山形大学医学部附属病院。先進医療を実践するハイブリッド手術室の運用の要ともいえる手術部では、導入当初より各診療科に有用な情報を提供し、積極的な活用を呼びかけてきました。その結果、各診療科の理解と協力のもと、空いている日がほとんどないほどの効率的な運用を実現しています。今回は、手術部副部長であり、脳神経外科准教授の小久保安昭先生に、適切かつ柔軟な運用のポイントと、脳神経外科によるハイブリッド手術室の活用状況、今後の展望などについてお話をうかがいました。

早期発見・対応による合併症の回避などに大きく寄与しています。また、悪性脳腫瘍では、脳の機能を確認しながら腫瘍を摘出する覚醒下手術にも積極的に取り組んでいます。さらに、2015年にハイブリッド手術室が導入されたことで、複雑な脳血管病変の治療にも対応できるようになりました。

コイル塞栓やステント留置、フローダイバーターなどでは治療が難しいと思われる脳動脈瘤に対し、親動脈を閉塞してバイパスを併用するような手術を行った場合、脳動脈瘤への血流が本当に止まっているか、追加でどこかを閉塞する必要はないかといったことを、術中の血管撮影によって正確に判断できるのは、非常に有用だと実感しています。実際、ハイブリッド手術室でなければ難しかったであろうと思われる症例も何例かありました。また、AVMなどでは、いま病変部のどのあたりを触っているかが、ナビゲーションを使っていても途中でわからなくなることがありますが、Siemens Healthineersの多軸型X線透視・撮影装置Artis zeegoに搭載されている CT-likeイメージング機能のsyngo DynaCT(以下DynaCT)を使用することで、かなり正確な位置情報を得ることができます。硬膜動静脈瘻などにおいても、ICG(インドシアニングリーン)を使用した蛍光造影に比べ、DynaCT画像を確認することで場所の特定が容易になりますし、カテーテル操作の正確性の確認にも有用です。現在、脳神経外科では、第2週と第4週の月曜日にハイブリッド手術室を使用しています。

透視撮影の画質に関してはまったく不満はありません。満足しています。多軸型ロボティックアームは、患者さんのどのような体位にも対応できるところが素晴らしいですね。天井懸垂型では決してできないような多彩なCアーム挿入ポジションでの撮影が容易にできています。体位制限はほぼないといっていいでしょう。ただし、技師さんの熟練度によっては、撮影開始までにかなりの時間がかかってしまうことがあります。DynaCTに関しては、前述したようにその有用性は評価していますが、できればもう少しCTに近い画像が欲しいところですね。また、体幹部では場所によってX線量を上げないと見きれないところがあることと、アーチファクト低減技術のさらなる向上などが今後の改善点といえるかもしれません。ただし、アンギオも使えるわけですから、実際に困っているということはまったくなく、むしろDynaCTの使用は、参考材料として術者の安心感の増大につながっているといえるでしょう。

シングルプレーンだけでなく、必要に応じてバイプレーンに切り替えて使用できるような二刀流の装置があるとありがたいですね。あとは、操作性をもっとスピーディーにして、血管撮影までの時間を短縮できれば助かります。AIを導入することで、ロボティックアームがその場の状況を察知して適切な位置まで自動的に動いてくれるようになれば、技師さんの熟練度によって血管撮影にかかる時間が左右されることもなくなるでしょう。

年間約6000件の手術件数に比して、スタッフ数は決して多くはありません。看護師さんの数もマンパワー的には少ないのですが、手術部経験豊富な看護師さんも多く、大学病院の担う複雑な症例、困難な症例に対し、知識や技術を習得して懸命に取り組んでくれています。そういった体制のもと、複数診療科でハイブリッド手術室を効率的に運用するためには、各科の理解と協力が欠かせません。おかげさまで当院は、その辺の協力体制が非常にスムーズに行われており、麻酔科の先生や看護師さんを中心にして、適切かつ柔軟に手術室の予定が組まれています。また、看護師さんは準夜勤・深夜勤体制で手術にも対応しているため、緊急の場合はすべての手術に対応しなければいけません。それが可能な人材を育成していくのも、手術部の大きな役割だと考えています。
当院では、当初より12室ある手術室の一つとしてハイブリッド手術室を位置付けており、通常の手術も行う前提で運用を開始しました。ただ、現状としては、ハイブリッド手術室で行うべき手術でほとんどの日が使用されており、効率的に活用できています。各診療科の要望を聞きながら、空きがないように回していくためには、手術部の努力はもちろんですが、各診療科の協力がとても重要だと感じています。現在の具体的な運用状況としては、TAVIをはじめとするSHD治療での使用が約半数を占めますが、導入当初より週1回の予定調整会や月1回の連絡会で、各診療科に積極的にハイブリッド手術室の有用な使用例などを宣伝していたこともあってか、循環器内科と心臓血管外科だけでなく、脳神経外科や呼吸器外科、整形外科にも症例に応じて有用に活用されています。敷居が高い、手続きが面倒だと感じることでハイブリッド手術室の稼働率が低くなることも十分に考えられますので、手術部が仲介役となって気軽に働きかけていくことが大切だと思います。当院では担当医だけでなく、各診療科の科長もとても協力的で、ハイブリッド手術室をしっかり活用していこうという意識の高さがうかがわれます。

全身麻酔が必要な症例にはすべて有用だと思います。循環器系のデバイス留置などは、高い清浄度が求められる点でも、確認が容易にできるという点でも、とても有用でしょう。今後、デバイスが進化していけば、よりイメージングが重要になっていくと思います。脳神経外科領域でいえば、脳動静脈奇形摘出術で確認撮影を同時に行いたい場合ですね。脳動脈瘤の開頭手術などにも、もっと使用していいのかもしれません。また、多軸型ロボティックアームの一番のメリットは、どのような体位にも対応して撮影できることですから、それを生かした手術もいい適応だと思います。

装置が学習することで、次の状況を予測して最適な動きをしてくれるようになるといいですね。動きに関してのセンサーやメモリー機能はすでに付いていますから、さらにカメラなどを設置してより多くの情報が得られるようになれば、操作性も格段にスピーディーに簡便になるのではないでしょうか。やはりこういう分野では、AIを導入するメリットはとても大きいと思います。ロボティックアームの制御や画質調整、X線量や造影剤の低減システムなどにAIが導入されてアシストしてくれれば、効率性が高まってハイブリッド手術室の敷居が低くなり、2室くらい運用するのが当たり前の時代が来るかもしれませんね。あとは、全体的にもう少しコンパクトになってほしいです。設置するのではなく、まさにロボットのように動いて出てきてくれれば、よりスムーズな活用が期待できると思います。


(2022年5月9日取材)