脳神経外科の特徴をお聞かせください。
早期発見・対応による合併症の回避などに大きく寄与しています。また、悪性脳腫瘍では、脳の機能を確認しながら腫瘍を摘出する覚醒下手術にも積極的に取り組んでいます。さらに、2015年にハイブリッド手術室が導入されたことで、複雑な脳血管病変の治療にも対応できるようになりました。
ハイブリッド手術室をどのように活用されていらっしゃいますか。
コイル塞栓やステント留置、フローダイバーターなどでは治療が難しいと思われる脳動脈瘤に対し、親動脈を閉塞してバイパスを併用するような手術を行った場合、脳動脈瘤への血流が本当に止まっているか、追加でどこかを閉塞する必要はないかといったことを、術中の血管撮影によって正確に判断できるのは、非常に有用だと実感しています。実際、ハイブリッド手術室でなければ難しかったであろうと思われる症例も何例かありました。また、AVMなどでは、いま病変部のどのあたりを触っているかが、ナビゲーションを使っていても途中でわからなくなることがありますが、Siemens Healthineersの多軸型X線透視・撮影装置Artis zeegoに搭載されている CT-likeイメージング機能のsyngo DynaCT(以下DynaCT)を使用することで、かなり正確な位置情報を得ることができます。硬膜動静脈瘻などにおいても、ICG(インドシアニングリーン)を使用した蛍光造影に比べ、DynaCT画像を確認することで場所の特定が容易になりますし、カテーテル操作の正確性の確認にも有用です。現在、脳神経外科では、第2週と第4週の月曜日にハイブリッド手術室を使用しています。
ハイブリッド手術室で使用されている多軸型X線透視・撮影装置Artis zeegoへの評価をお聞かせください。
透視撮影の画質に関してはまったく不満はありません。満足しています。多軸型ロボティックアームは、患者さんのどのような体位にも対応できるところが素晴らしいですね。天井懸垂型では決してできないような多彩なCアーム挿入ポジションでの撮影が容易にできています。体位制限はほぼないといっていいでしょう。ただし、技師さんの熟練度によっては、撮影開始までにかなりの時間がかかってしまうことがあります。DynaCTに関しては、前述したようにその有用性は評価していますが、できればもう少しCTに近い画像が欲しいところですね。また、体幹部では場所によってX線量を上げないと見きれないところがあることと、アーチファクト低減技術のさらなる向上などが今後の改善点といえるかもしれません。ただし、アンギオも使えるわけですから、実際に困っているということはまったくなく、むしろDynaCTの使用は、参考材料として術者の安心感の増大につながっているといえるでしょう。
脳神経外科のお立場からハイブリッド手術室に今後求めたいものは何でしょうか。
シングルプレーンだけでなく、必要に応じてバイプレーンに切り替えて使用できるような二刀流の装置があるとありがたいですね。あとは、操作性をもっとスピーディーにして、血管撮影までの時間を短縮できれば助かります。AIを導入することで、ロボティックアームがその場の状況を察知して適切な位置まで自動的に動いてくれるようになれば、技師さんの熟練度によって血管撮影にかかる時間が左右されることもなくなるでしょう。
ハイブリッド手術室運用の要である手術部についてご紹介ください。
貴院のハイブリッド手術室の特色と具体的な運用方針をお聞かせください。
ハイブリッド手術室での画像支援下手術が有用だと思われる症例はどのようなものでしょう。
全身麻酔が必要な症例にはすべて有用だと思います。循環器系のデバイス留置などは、高い清浄度が求められる点でも、確認が容易にできるという点でも、とても有用でしょう。今後、デバイスが進化していけば、よりイメージングが重要になっていくと思います。脳神経外科領域でいえば、脳動静脈奇形摘出術で確認撮影を同時に行いたい場合ですね。脳動脈瘤の開頭手術などにも、もっと使用していいのかもしれません。また、多軸型ロボティックアームの一番のメリットは、どのような体位にも対応して撮影できることですから、それを生かした手術もいい適応だと思います。
今後のハイブリッド手術室のイメージングシステムに期待されることは何でしょうか。
装置が学習することで、次の状況を予測して最適な動きをしてくれるようになるといいですね。動きに関してのセンサーやメモリー機能はすでに付いていますから、さらにカメラなどを設置してより多くの情報が得られるようになれば、操作性も格段にスピーディーに簡便になるのではないでしょうか。やはりこういう分野では、AIを導入するメリットはとても大きいと思います。ロボティックアームの制御や画質調整、X線量や造影剤の低減システムなどにAIが導入されてアシストしてくれれば、効率性が高まってハイブリッド手術室の敷居が低くなり、2室くらい運用するのが当たり前の時代が来るかもしれませんね。あとは、全体的にもう少しコンパクトになってほしいです。設置するのではなく、まさにロボットのように動いて出てきてくれれば、よりスムーズな活用が期待できると思います。
(2022年5月9日取材)