洪水、森林火災や地震は、人為的な気候変動が引き起こす自然災害だと言われています。
森林の焼失、農作物の枯渇、広大な土地の浸水......。
これらの現象についてのニュースや報道は増えていますが、気候変動は環境に影響を与えるだけでなく、人々の健康にも直接的な影響を与えているということは、メディアや世間一般では十分な議論が行われていません[1,2]。サイエンス分野においてでさえ、2017 年に発表された論文のうち、気候変動と人間の健康との関係を取り上げたものは、わずか約4%に過ぎませんでした[3]。
気候変動が健康に与える影響
気候変動と健康との関連性は、International Panel on Climate Change(IPCC:気候変動に関する国際パネル)によって確認されています[1]。アウグスブルク大学のクラウディア・トレイドル= ホフマン教授は、特に熱波が健康に与える影響は大きいと主張しています[4]。さらに大気や水の汚染も健康に影響を与える因子として考えられるとしています[5]。
「気候変動から特に影響を受けているのは、弱い立場にある人々です。たとえば、異常な暑さは病にかかっている人に負担となり、症状を悪化させます。暑さ対策の計画と実施が求められています」
アウグスブルク大学病院環境医学外来およびTUM環境医学科院長。皮膚科、性病科、アレルギー科の専門医資格を持つ

アウグスブルク大学病院環境医学外来およびTUM環境医学科院長。皮膚科、性病科、アレルギー科の専門医資格を持つ
特定の疾患パターンに直接働きかける排気ガス
気候変動は、直接的にも間接的にも、ある種の疾病パターンを助長するよう働きかけます。排ガスを例に挙げると、健康に害を及ぼす2 つのシナリオが浮かび上がります。
その1 つは、粒子状物質など排気ガスの個々の成分を吸入することで、短期的及び長期的に循環器系にダメージを与える原因となっていることが確認されています[6,7]。
このことは、環境汚染が健康に直接影響を与えることを示しています。
紫外線と熱波の増加は重要な要素
一方、排気ガスの放出により、ある因果関係が生じます。オゾン層が減少し、地球上の紫外線が増加することで、最終的には気温上昇を招き、間接的に健康被害を助長させます[8]。そのほか、干ばつや風不足、平均気温の上昇や暑さの長期化などが要因となって熱による暑さストレスが増加し、健康被害をさらに拡大させてしまう可能性があります。とりわけ、高齢者や子ども、既往症のある人は、こういった本質的な要因により特にリスクが高いと考えられています。暑さによる身体的ストレスにより、循環器系疾患、呼吸器系疾患、リウマチ性疾患などを患う可能性があります[9]。また、熱ストレスの増加に加え、紫外線の増加も問題であることが知られています。国際がん研究機関(IARC)は、人工であれ自然由来であれ、紫外線には発がん性があると分類しています[10]。
気温上昇がもたらす動植物への変化
気温の上昇は、花粉の飛散量を増加させ、飛散期間を長期化させることにもなります。アレルギーを引き起こす植物の生育や蔓延は、気候的な要因が左右するため、温暖な気候はアレルギーに苦しむ人々にとってますます大きな問題となっています[11]。さらに、気候変動は媒介生物や宿主の増加につながる可能性もあります。また、気候変動により新生物や新植物、すなわちこれまで見られなかった外来種が、中央ヨーロッパの緯度に定着する可能性も出てきました[12]。
これは、ヒトスジシマカのような蚊を媒体とする新しい病気の蔓延させることにもつながります[13]。
異常気象のもたらすもの
気候変動の影響はさまざまなところに及び、異常気象の発生頻度を高めるものも多岐にわたります。激しい雷雨、洪水、強風や突風は高い経済的損失をもたらすだけでなく、切り傷、骨折、溺死など命を危険にさらすこともあります。2021 年7月、ドイツのラインラント=プファルツ州とノルトライン=ヴェストファーレン州では、死者180 人を超える史上最大規模の洪水被害を受けました。被災者のトラウマや心理的な影響については、ここではまだ考慮されていません[14]。
ヘルスケア分野の新たな課題
気候変動はすでにヘルスケア分野に深刻な課題を突きつけているばかりか、将来的には新たな問題も浮上させるだろうと考えられています。既存の疾病パターンが深刻化することによる疾病の増加だけでなく、外来病原体による健康への新たな脅威が発生する可能性も考えられます。最終的には、医療機関の負担増につながるとも考えられ、医療機関へのニーズが高まるとともに、効率的な技術革新に対するニーズも高まりを見せるでしょう。
また、ヘルスケア分野が気候変動に大きな影響を及ぼしていることも特筆すべき点です。産業ごとに国だと仮定し、ヘルスケア産業をひとつの国とした場合、ヘルスケア産業は世界で5 番目の温室効果ガス排出者でもあるのです。Health Care Without Harm(HCWH)は、害を及ぼさず、人と環境の健康を促進するというビジョンを共有しており、以下のステートメントに要約しています。「私たちは、環境を汚染したり、病気の原因となってしまうような医療行為に代わる、生態学的に健全で健康的な医療を実施すべく取り組んでいます」[15]。
気候変動への取り組みを支援するために、私たちにできること
ヘルスケアにおけるリーディングカンパニーとして、Siemens Healthineersは重要な変化をもたらすことができると信じており、再生可能で健全な環境づくりに貢献することが私たちの責務であると認識しています。そのため、私たちは、
- COP21 のパリ協定で欧州連合(EU)と192ヵ国が署名した、地球の平均気温上昇を1.5 度以内に抑えるという世界的な取り組みを支持します[16]
- 2030 年までに事業活動においてカーボンニュートラルを達成することを目指します
- 2021 年10月にSBTi(Science-based Target Initiative)に参加し、当社の排出削減目標がパリ協定の目標達成に必要なレベルと一致するということが承認されました
- 循環型経済に向けて取り組みを進めています
- 製品のエネルギー効率を高めています
- 事業所における環境負荷の低減に努めています
By Natalie Minnert and Markus Gloss
Natalie Minnert and Markus Gloss are editors at Siemens Healthineers.
© Photography: Silke Weis; Portrait: Anatoli Oskin