私たちの脳 - X 線技術が乗り越えるべき課題Our Brain – One of the Biggest Challenges for X-ray Technology

2020/09/14
Side view of vascular structures inside the skull
頭蓋骨内部の血管構造:血管撮影装置を用いた画像をシネマティックレンダリングで加工

ギリシャの哲学者であり自然科学者でもあったアリストテレスは、謎に包まれた人体の部位や器官について考察し、脳は土と水の要素で構成されていると主張しました。約2400年後の現在、私たちは神経系や頭の中にあるゼリー状の塊について多くの興味深い洞察を得ることができました。重さ約1.4キロの脳は、約1000億個の神経細胞で構成されており、約100兆個の接合部でつながっています。成人の神経回路の長さは約580万kmで、これは地球の周囲の約145倍にもなります。中枢神経系は、電気信号を介して体の機能を制御しており、脳と脊柱を時速300キロ以上の速さで走行しています。これらの複雑な構造をX線技術によってできるだけ正確に描写し、その画像を用いて診断を行うには、膨大な技術的課題があります。

Two X-ray images taken in 1898
1898年に撮影されたX線画像。患者の頭部に残っている弾丸の位置をできるだけ正確に特定しようとしたもの

1895年11月8日にヴィルヘルム・コンラッド・レントゲン博士がX線を発見、間もなく最初の頭蓋骨の画像が公開されました。この画像は露光時間が約1時間のもので、これにより医師は、例えば銃で撃たれた患者の頭部のどの辺りに弾丸が留まっているかを推察することができました。しかし、診断に適した脳のX線画像が撮れるようになったのは、それからさらに20年後で、その頃までに200以上の方法が試行されていました。気脳撮影法と呼ばれる方法では、患者の腰椎から脳脊髄液を採取し、空気、ガス、ヨード化油などで置換した後、X線撮影をします。そのX線画像では、空気と脳組織が比較的はっきりと区別されていました。これにより、医師は腫瘍だけでなく、腫れや特定の状況下では脳出血さえも可視化して評価することができるようになったのです。しかし、気中脳波検査には多くの重大な副作用、例えば数日間の嘔吐や激しい頭痛のほか、発作や脳炎を引き起こすこともありました。

Examination with the Siemens MIMER III and an RCT-3 rotating chair/table in 1969
MIMER III とPCT-3 の検査(1969年)

気中脳波検査は1970年代まで脳腫瘍の位置特定に最も重要な手法でした。この段階までに、シーメンスのMIMER IIIのように、脳腫瘍の位置特定のために設計されたX線装置は、脳の画像化に最適化されたX線管を使用するたけでなく、多数の自動プログラムを備えるなど、技術的に高度に洗練されていきました。シーメンスはその後、MIMER IIIに搭載した高度な機能の開発を継続しないと決めましたが、その理由は、この苦痛を伴う手技が、まもなく登場するまったく新しい発明であるコンピュータ断層撮影(CT)によってこの機能が不要になったからでした。

 


The prototype of the first CT scanner int he history of Siemens Healthineers: SIRETOM in 1974
Siemens Healthineers 初のCT装置のプロトタイプ: SIRETOM(1974年)/1974年と1983年の脳画像の比較

CT(コンピュータ断層撮影)は神経放射線学の領域をすっかり変革し、脳組織の検査に最適な方法としてまたたく間に普及しました。SIRETOM頭蓋スキャナというCTが登場した2年後、シーメンスは初の全身CTスキャナであるSOMATOMを発表しました。今では神経科医が診断を行う際に、脊髄や他の神経系の構造のスライス画像を参照することも可能になりました。写真2枚目の2つの脳画像が示すように、数年のうちに画質も大幅に向上しました。左側は1974年の画像で、右側は1983年にSOMATOMで撮影された画像です。古い画像は、大きな腫瘍や出血を発見し、その位置を特定することができましたが、約10年後の画像では、脳の詳細な構造や視神経までもはっきりと捉えることができるようになりました。

ARTIS icono
ARTIS icono:頭蓋骨上部と基底部をノイズなく画像化

最新の画像処理技術のおかげで、疾患を高い精度で特定できるようになり、腫瘍などの病変はミリ単位の正確さで位置を特定できるようになりました。ARTIS icono のような最新の血管撮影システムでは、X線を用いてほとんどノイズを発生させることなく頭蓋骨上部や基部に近い領域を画像化することができます。この領域はプレシジョン・メディシンの一つとして知られ、ロボット支援による低侵襲治療技術を用いることで、治療時間の短縮や治療成果の向上を実現しています。デジタル化や人工知能の発展が高精度な画像やロボットの相互連携を支えており、今後も治療法は改善を続けていくことでしょう。