急速に変化を遂げるヘルスケア市場において、ポピュレーション・ヘルス・マネジメントは医療提供者にとって重要な領域になりつつあります。たとえばプライマリケアはもちろん、専門家や栄養士、理学療法士など、ケア提供者との調整まで、ポピュレーション・ヘルス・マネジメントは患者ケアを俯瞰的に見てアウトカムの向上を目指すことができます。
パーソナルヘルスについてのアプリやデバイスが普及するいま、ポピュレーション・ヘルス・マネジメントにおいてもさまざまな情報源がもたらす膨大な量のデータをどう活用していくか、十分な検討が求められています。自身の健康管理に意欲的で積極的に情報や知識を求め、何らかの技能やスキルを生かそうとする「自発的な患者」1 は、そうでない患者よりも良いアウトカムが得られるという研究結果があるように、患者エンゲージメントは最終的には患者ケアの改善につながります。
特にメディケアの新しい診療報酬モデルが医療サービスの量ではなく質に焦点を当てていることから、データを迅速に分析する能力は臨床成果及び財務面の双方を改善する上で重要です。米国保健福祉省(HHS)は、従来のメディケア診療報酬を変えるため、2016年までに全体の85%、2018年までには90%を、ケアの質に対して支払うという目標を掲げました2。
しかし、多くの医療施設では膨大な量のデータを扱い効果的なポピュレーション・ヘルス・マネジメントを行うためのインフラ整備が十分ではありません。ある調査によると、医師の約3分の2が必要な患者データのすべてを閲覧・活用できていないとする一方で、3分の1以上の医師が、毎日のルーチン業務にビッグデータを統合し活用していくのは限界があるが仕方がない、と答えています3。別の調査では、6つの医療施設のうち1施設は、単にデータを「ダブリングする」(手を出す、の意)だけだということがわかりました4。
今後数年間でポピュレーション・ヘルス・マネジメントが広がり、医療提供者はコストを抑えてケアの質を高めることを奨励されるため、ヘルスケア分野のデータ分析には劇的な変化が生じるでしょう。医療機関がどうポピュレーション・ヘルスのモデルを打ち立て、医療の変革を成し遂げたのかを示す例があります。Penn Medicineは、重大な病気のリスクがある患者を発見するための予知分析プラットフォームを開発しました。最初のアプリケーションの中には心不全に関するものがありました。というのも、米国では心不全が570万人に影響を及ぼし、医療費支出が毎年約307億ドルにのぼることなどが背景にあります5。Penn Medicineは、心不全患者の20〜30%が標準的な手法で診断されていないと推定し、心不全をより正確に特定できるようアルゴリズムを改良しました。その結果、より良い治療計画が立てられるようになり、再入院率が低下し、アウトカムが改善され、医療費の削減にまで至りました。
Kaiser Permanente Southern Californiaではデータ分析を活用し、ポピュレーション・ヘルス・マネジメントが前立腺がん領域でも効率的で信頼性の高いケアを可能にし、良好な患者アウトカムをもたらすと示しました6。データ分析により、Kaiser Permanenteは、手術支援ロボットの導入が従来の手術より良い結果をもたらすことを示しました。ロボットで手術支援を受けた男性は、手術の際の失血が少なく輸血のリスクがなかったばかりか、性機能が回復する可能性も高いとされたのです。
さらに、ポピュレーション・ヘルス・アナリシスは薬剤管理、アフターケア、標準化スクリーニングの改善の点で前立腺がん患者の骨粗鬆症予防と関連性があり、前立腺がん患者が骨粗鬆症のハイリスク集団と呼ばれるなか、ポピュレーション・ヘルス・アナリシスにより骨折率の大幅な減少をもたらしたのです。
米国コロラド州にあるParkview Medical Centerは、患者エンゲージメント促進のためにポピュレーション・ヘルス・アナリティクスを導入しました。導入したプログラムには、股関節置換手術を受けた患者とEメールや動画でやり取りすることも含まれており、そのおかげで入院滞在期間が17%短縮、患者1人あたり平均2,000ドルのコスト減につながりました。Eメールや動画を受信した患者の90%は退院後すぐに在宅ケアに移行し、残り10%は専門のケア施設へ移りました。一方、Eメールや動画を受信しなかった患者で在宅ケアに移ったのは67%、ケア施設へ移ったのは29%、残り4%は介護施設へ入所したのです。患者にとってベネフィットがあっただけでなく、これにより紹介による入院患者数が増え、股関節置換手術件数が1年で30件増加し、22万9,907ドルの増収となりました。
今後、アナリティクス技術を用いてパターンを発見したり、患者エンゲージメントとコンプライアンスを強化し、正確に症状を把握することがますます求められていくでしょう。とはいえ、医療データの劇的な増加や多様化、世界的な人口高齢化、慢性疾患の増加、診療報酬体系の変化などを考慮すると、それらの実現にはまた時間がかかりそうです。