ポイント・オブ・ケア分析装置が実現する在宅医療

Per Simonsson|2020-07-20

これまで緊急外来に何度も駆け込んでいた患者が、専門家チームの支援を受けて在宅医療を受けられるようになりました。
スウェーデンのエンゲルホルムでは、モバイルケアチームが、患者、家族、医師、病院にさまざまなメリットをもたらしています。

スウェーデンの片田舎、とある高齢患者の自宅前で、モバイルケアチームが車から備品を下ろします。
チームは何度も、この患者のもとを定期的に訪れており、患者は機嫌良く、私たちをリビングに招き入れてくれました。

この患者は、心臓が悪いため数種類の薬を服用していましたが、以前より電解質異常が続き、前回から薬を変えました。そのため定期的な数値の確認が必要です。ここ最近の症状を医師と話し合った後、看護師が採血し血液ガス分析装置にかけます。その間、皆でコーヒーテーブルを囲んで座り、結果を待ちます。ほどなくプリンターから出力された1枚の紙から電解質濃度とクレアチニン値をチェックし、医師は頷きます。「結果は良好ですね。」患者も安心し微笑みます。この患者は、スウェーデンのエンゲルホルムにある在宅医療チームが定期的にケアを行っている、36名の患者のひとりです。

「以前は、頻繁に通院していましたが、専門家チームが先端医療を提供してくれるおかげで、今は自宅にいながら治療を受けられます。もう随分前から、夜中に救急車で病院に運ばれることもなくなりました。」

患者はそう話します。在宅医療は、患者だけでなく、救急外来チームへもメリットをもたらします。 この患者の数年前は、救急車を呼んでそのまま何日か入院することが度々あり、何度も再入院を繰り返していました。また治療は体系的なものではなく、急性症状に対処するものの全身の状態は考慮されませんでした。ある日、かかりつけ医がモバイルケアチームを紹介したことがきっかけで、チームが提供する最先端の在宅医療をスタートすることができました。治療計画は本人も参加する形で作成され、様々な状況を想定して処置を定めました。こんな時はどうするか?いつ、誰に連絡するか? このアプローチを通じて、患者と医療チーム( 一般医・専門医) は、現代医療で提供できる解決策に基づき、個々の患者のニーズに応じてカスタマイズされた、新たなツールを手にしたのです。 

エンゲルホルム病院へと続く橋(スウェーデン)
エンゲルホルム病院へと続く橋(スウェーデン)

「なくてはならない存在です」
先端在宅医療におけるポイント・オブ・ケアの位置づけについて、Marie Bladh はそう訴えます。

「本来であれば病院で治療を受ける患者に、高度な専門医療を行えるのです。ただしそのためには、現場で、つまり患者の自宅で正しい判断を下すためのツールが必要不可欠です。私たち医師にとって、精度と信頼性が高い装置が非常に重要となるのです。」

Marie Bladhは、エンゲルホルムの在宅医療チームヘッドです。彼女は、専門病院での治療、一般診療、地域医療から成る、複雑な医療ネットワークの中心的存在です。この巨大ネットワークに患者中心のプログラムを確立するには、先鋭的なアイデアと、新たな働き方が必要です。プログラムを実行し成功させるには、縦割りの発想を捨てることが大切でした。

エンゲルホルム病院在宅医療チームヘッド(スウェーデン)Marie Bladh

現在、このプロジェクトは、完治を見込めずとしても生活の質をできるかぎり維持するため、定期的な介入を必要とされる慢性疾患患者をケアするひとつの形として確立されています。通院に時を要すことなく希望どおり自宅で、快適に暮らしてもらうべきなのです。

「主に2つのケースによる人々に治療を提供しています。急性症状がある高齢患者と、定期的に先端医療を必要とする高齢患者です。今では、混雑した救急外来ではなく、自宅でそれを実現することができています」
とBladh は説明します。まれに病院で治療が必要になった場合も、救急外来を経由せず直接病棟に入院することができます。

「患者、家族、医師、病院など誰もがこれを歓迎しています。これは全く新たな試みです。しかも、患者は重篤な方ばかりで、多くが余命1 年足らずです。その1 年を、病院でなく自宅で過ごせるのです」

  

エンゲルホルムのモバイルケアチームは、この新たな医療分野のパイオニアです。これは従来の往診とは別物となり、高齢者や重篤な合併症などの最も症状が重く体力の衰えた患者を、多剤併用療法で治療する、多職種による体系的なアプローチです。

この在宅医療を受けるには、4 種類以上の重篤な症状に6 剤以上を服用している必要があります。素晴らしい臨床成果が上がっており、このチームのケアを受けている患者の緊急入院率は、90%以上低下しています。