患者アウトカムの向上「バリュー(価値)に基づくケア」という新しい発想

2018-08-16

増大しつづける医療費に対処すべく、世界中で医療サービスの診療報酬体系が変わりつつあります。バリューに基づくケアに移行していくために、患者のアウトカム向上という点に注目が集まっています。そのため、いま多くの病院経営者が、コスト効率よく、患者のアウトカム全般を向上していくという課題に取り組んでいます。

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  • より詳細な診断を推進する「検査」:正確かつ迅速な診断は、適切な治療を決定するうえで基礎となるものです。近年の検査は診断の質を向上させるだけでなく、誤診断によって発生しうる関連費用の削減にも貢献しています。
  • 治療計画が最適なものとなるようサポート:治療に効果があってこそ、効率を向上することができます。逆に効率の向上により、治療に成果が出ることもあるでしょう。その治療が有効であり、効率もよいと保証すること自体が、医学的にも経済的にもうまくいっている医療提供者の特徴と言えます。
  • 臨床医に対する十分なケア:臨床医と看護師との雰囲気がよくない職場にいると、患者のアウトカムに少なからずマイナスの影響を与えてしまいます。支え合いの雰囲気のある職場環境を作りだすことで、より医療スタッフの満足度が向上し、結果として患者ケアの質も高くなります。
  • 透明性を高め、成果を向上する:ある改善策が功を奏したかどうかを確かめるには、患者アウトカムの定義を明確にし、透明性が高く信頼のおける方法で評価する必要があります。「患者が最も重要視すること」をきちんと反映することが、本当の意味でクオリティの高さを測る尺度となるでしょう。
  • 退院後のケアを保証:治療フローに沿ったシームレスな情報の流れは、治療全体の成功にとって欠かせない要素です。特に治療フローの中で人的な引き継ぎが発生する場合、改善が見込まれる点が多くあります。
  • 退院後の患者のサポート:患者が積極的に治療プロセスに関わるほうが、よりよいアウトカムを確実に達成することができます。その際、明確で分かりやすいコミュニケーションが成功の鍵です。
  • より良い成果のためのツール:ITツールやモバイル機器は、診断と治療の進歩に大きく貢献しています。とくに、医療へのアクセスやケアの質が十分でない地域で大きな違いを生み出しています。
コスト効率が高いまま、患者のアウトカムを向上したい病院経営者にとって、「継続的な患者ケアをどう作り上げていくか」が最も大きな課題です。
ドイツの病院で発覚した医療過誤

診断:より詳細な診断
精度の高い診断をタイムリーに下すことが、その後の治療やプロセスをスムーズに進行し、よりよい患者アウトカムに導くための出発点といえます。多くの場合、診察を始めて数分で、治療やその後のステップ、負担する費用について話し合い、さまざまなことが決められます。しかし、診断そのものが複雑で、多くを決めるのが難しいこともあります。報告書によると、アメリカでは1年間で20人に1人、全米で毎年およそ1,200万人が診断ミスによって何らかの影響を受けています。診断ミスは米国の医療訴訟のなかでも大きな訴訟事由の一つになっています (約30%)。また、診断ミスが原因で、年間4万〜8万人が命を落としていると推定されています。[1]

診断ミスを特定し、その原因を追及することは、患者アウトカムを大幅に改善することができるという意味でも大きな意義があります。また、診断ミスによって、存在しない症状に対して不要な処置をしたり、手遅れの状態に処置を施してしまう、などの可能性があります。これは患者だけではなく、医療提供者にもマイナスの影響を与えます。つまり、入院や通院が長引いたり、間違った投薬がなされたり、避けられる検査や手術が行われたりするなど、医療施設側にもオペレーション面や経営面でダメージを与えてしまいます。さらには、患者の状態の悪化や再入院など、効率の低下を引き起こしてしまうばかりか、最悪の場合は高額な法廷闘争となってしまうことすらあるのです。

診療報酬にプラスとなる患者アウトカムの定義づけとは?
現在の基準は、患者にとって本当に重要なものに即していない

効率的かつ有効な治療
通常は、診断後に治療の決定をします。初期の診断が不完全だったり不正確だったりする可能性があるため、よりよい患者アウトカムのためには、診断や治療については、2つの異なる意思決定プロセスとして個別に考慮されるのがよいでしょう。さらに、診断が正しいとしても、多くの場合、治療法はいくつか存在します。よい治療のためには、すべての選択肢を知ることが大切です。これらは患者一人ひとりの病状や特性、科学的知見に基づくものです。電子カルテ(EHR)はもちろん、医師と専門家間のシームレスな情報交換は、重要な役割を果たします。

治療の選択肢が多かったり治療計画があいまいだったりすると、患者のアウトカムと分配できるリソースに悪影響を与える可能性があります。治療は効果があって効率もよく、望ましい結果につながるものでなければなりません。患者アウトカムを最適化し、コスト効率を最大化するために、重要性が高まってきているのが臨床モニタリングです。最新の画像診断や臨床検査は、進行中の治療の経過や成果をモニタリングするのに役立ちます。しかし、多くの病院では、コスト面から最新の医療機器への更新が遅れてしまいがちです。マクロな視点で見ると、国によって導入している医療機器にはレベル的に大きな開きがあります。たとえば、欧州の医療機器についての調査によると、とくに東欧ではMRIやCTへのアクセスが不平等であることが示されています。[2]

病院経営者は財務面のプレッシャーもあり、費用効果は高いまま患者アウトカムを改善しなければならない、という課題に直面しています。
患者の報告に基づくアウトカム指標は、コスト削減に貢献

定量化によるアウトカムの改善
診断の質、治療の決定、および治療のモニタリングやその管理は、患者アウトカムを大きく左右します。米国の経済学者マイケル・ポーター氏によると、診療報酬の低下や市場シェアの低下に直面している医療機器プロバイダーは、バリューを向上させ、それを証明するしか選択肢がありません。一方で病院の経営層は、アウトカムを高める必要性を認識しているものの、その測定方法が不十分だと感じています。また、ほとんどの品質指標は品質そのものを評価するのではなく、むしろ、医療ガイドラインを遵守していることを記録する評価プロセスにすぎません。したがって、品質についての正確で唯一の指標は、「患者が重要視するアウトカム」を達成できたかどうか、ということになるのです。[3]  

それを有意義なベンチマークとするためにも、アウトカムについてデータ収集をする際には、患者に積極的に関与してもらうのが望ましいでしょう。Patient-Reported Outcome Measures(患者報告アウトカム指標:PROMS)は、すでに英国のさまざまな病院で患者アウトカムを高めるために効果的に用いられています。
たとえば、PROMSは術前および術後の患者アンケートをベースにして、外科治療を経てその患者がどのような健康状態になるかを想定するために用いられています。英国における複数の調査結果を見ると、医療機関が独自の品質基準のベンチマークとしてPROMSのデータを活用していることがわかります。これらのケーススタディは、患者アウトカムを改善するのに標準化が大きく貢献しているという結論に導いています。同時に、このケーススタディは、患者アウトカムの向上が必ずしも高いコストを伴うわけでなく、実際は収益を改善できることを示しています。[4]

コスト効率が良いまま患者アウトカムを向上するという課題にうまく対処できる方法として、患者ケアの一連のつながりを意識して実践していくことがあります。詳しくはこちらでお読みいただけます。
収益に影響を与える再入院ペナルティ

関連するケアの流れをつくる
とりわけヨーロッパ先進諸国の医療組織を見た場合、機能としては優れているものの、言い換えれば個々の医療提供者の集合体にすぎないという指摘があります。以前は、一人の患者を別の医師や専門家に引き継いだ時点、もしくはその患者が退院した時点で、ケースとしては終了とされてきました。つまり、治療がうまくいったかどうかのフォローアップはほとんど行われていませんでした。一方、コスト意識の高まりもあり、医療サービスにおけるリソースの最適活用を目指す動きも顕著になってきています。より費用対効果の高い医療を目指し、医療提供者はケア全体を俯瞰して眺め、ケアの連続性や関連性の中から改善点を特定していきます。患者が歩むケアの道すじを調べることによって、医療提供者は潜在的な患者アウトカムの改善とコスト削減を実現することができます。また、病院、医師グループ、クリニックや他の施設を含む医療サービスを提供する人や組織が連携し、協力しあうケースも増えています。 

2010年に米国のオバマ政権下で開始された医療保険制度改革(The Affordable Care Act:ACA法)では、退院後の患者アウトカムに貢献するために、医療提供者に対する財務的なインセンティブがいかに効果的かという明らかな事例が示されています。たとえば、メディケア(公的医療制度)は、患者が退院後30日以内に再入院となった場合、医療機関に対する補助金を減額すると定めています。メディケアを利用する5人に1人がこれに当たるためです。メディケア・メディケイド・サービスセンター(CMS)によると、メディケア契約をしている3,400の医療施設のうち約2,700施設が、30日以内の再入院が原因で、2016年度に4億2,000万ドルの減収見込みとなりました。[5]

病院経営者は財務面のプレッシャーもあり、費用効果は高いまま患者アウトカムを改善しなければならないという課題に直面しています。
コミュニケーションのプロセスを最適化することで再入院率の低下につながる [11]

患者エンゲージメントによるアウトカムの改善
治療の流れに沿って、いつどのようなケアが提供されるかという全体像を把握、必要に応じて最適化することは、医療を提供する側にとって意義のあることです。特に、退院後に患者のケアをする一般開業医、そして患者自身も、患者アウトカムに相当の影響を及ぼします。
米国で行われた調査では、多くの施設が業務引き継ぎのコミュニケーションや退院に関するプロセスに大幅な改善が必要、という結果が示されました。たとえば、米国の最新年次患者サーベイによると、回答者の14%が将来どのような症状や健康状態の兆候が現れるかなど、書面による情報提供を受けておらず、退院後のフォローアップや面談のアポイントなどについても話し合ったことがない、と回答しています。[6]


万が一、患者に関与してもらうのが難しい場合、立証された事例を用いて患者アウトカムを向上させるのは難しくなるでしょう。また、低所得や無職、教育の不足などという社会的・経済的要因の影響も大きく、みずからの健康を守るという意識が持てなかったり、医師のアドバイスに従わなかったり、病院を訪ねることすらしない、ということにもつながっています。
一方、再入院率の高さと病院の管轄地域との間に関連性があるということが多くの調査結果で示されています。これは、低所得者層の多い地域の病院が、再入院のペナルティーによってマイナスの影響を受けていることも示しています。[7] つまり、信頼性が高く合理的なアウトカムの測定方法を構築することがどれだけ重要か、ということにつながるのです。

コスト効率が高いまま患者アウトカムを向上したいという課題を、スマート・データでどのように対応していくか、こちらでお読みいただけます。
患者エンゲージメントを高めることが、患者満足度の向上につながります

よりよいケアのためのスマートデータ
ITインフラとモバイル技術をうまく活用すれば、たとえば、患者と医師がタブレットやスマートフォンアプリを介してつながるのをサポートするなど、患者ケアのプロセスを円滑に進めたり、患者エンゲージメントを促すのに役立ちます。そのため、今後は訪問型ケアから、モバイルでつながったケア(コネクテッド・ケア)が中心になっていくでしょう。先進国ではコネクテッド・ケアの大きな利点として、慢性疾患の治療が改善されたことが挙げられます。さらに、McKinseyの最近の調査で示されているように、IoTアプリの最大のメリットは、医療へのアクセスが十分でない人や地域に対しても医療サービスの提供が拡大できることです。[8]


多くの国で導入されているEHR(電子カルテ)は、意思決定にあたり患者と医師とが情報を共有できる基盤プラットフォームでもあります。アクセンチュアの最近の調査によると、患者の半分以上がオンラインでデータにアクセスできることを望んでいます。[9] これが、多くの医師の利益にもなることは明らかです。米国の医師の大多数は、患者が自分自身の電子カルテを閲覧し、更新できるようにすることが、患者エンゲージメントと患者満足度の向上につながると答えています。[10] 患者とのつながりを強くし、ペイシェント・ジャーニーに貢献したいと望む医療提供者は、長期的な視点で患者アウトカムの向上を達成しつつあります。

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