臨床検査室の生産性の向上検査室はどうすれば、需要増に応えていくことができるでしょうか?

2018-06-15
Laboratoriemedicin Dalarna(スウェーデン)、Sivert Stenman
Laboratoriemedicin Dalarna(スウェーデン)、Sivert Stenman

検体検査を行う施設にはジレンマがあります。ひとつは、日々、多くのプレッシャーにさらされていることです。たとえば、

  • 診断精度を向上すること
  • 多くの作業をより迅速に、先回りして行うこと
  • 検査項目を増やすこと

その一方で、診療報酬の削減とスタッフの適切な配置についても大きな課題となっており、検査室はより効率的になることを求められています。たとえば、

  • コストの削減
  • 最小限のスタッフで成果を出す

最新の検査室を目指して投資するのは、出発点ではあるものの、それだけでは不十分といえます。先進国では臨床検査にかかるコストの大部分を人件費が占めており、約60パーセントに上ります。[1]

検査室のニーズにお応えするための技術や手段、トレーニングについてご覧いただけます。


労働生産性の向上が必要だとするマクロ動向
労働生産性の向上が必要だとするマクロ動向

医療機関の経営層は、臨床検査が患者ケアにとっていかに重要かを認識しています。臨床的な決定の70%は、体外診断として行われる臨床検査の結果をもとに下されています。[2] とはいうものの、現在の臨床検査や検査室にとって深刻な課題になっている医療トレンドが3つあります。

• 検査数の増加

• スタッフ不足

• 診療報酬の削減

人口増や高齢化、新しい項目検査の継続的な導入をはじめ、積極的に健康や疾病状態を管理しようという動きもあり、検査量は増加の一途をたどっています。
 

同時に、検査技師の技能レベルや知識レベルを高いまま維持することも難しい課題と言えます。米国の連邦労働統計局は、2018年までに臨床検査科学(CLS)プログラムに1万8,000人分の空きが出ると予測していますが、認定CLSプログラムを卒業する学生は毎年5,000人程度です。[3] これでは、将来の検査室スタッフを育成するための教育プログラムが、求められる専門家の数を3分の1しか満たしていないということになります。

英国NHSのほとんどの検査室で、長期にわたって作業負荷が増加しています。そのため、スタッフの技能レベルは同じ、もしくは低下を見せており、ストレスの増加や極度の疲労、生産性の低下を招いています。これはスタッフを大きなプレッシャーにさらすことになり、エラー率が高くなったり、患者のアウトカムにも影響を及ぼしかねません。 [4]

「検査室のスタッフの配置は、エラー率、死亡率、患者のアウトカムと直接的な関係があると言えます」。 [5] 

これらの問題は、診療報酬の低下によってさらに悪化する可能性があります。たとえば、米国保健社会福祉省の公的保険制度運営センターであるCenters for Medicare and Medicated Services(CMS)は最近、メディケアへのアクセス保護法(PAMA)を施行し、大幅なコスト削減を実施しました。[6] これは米国の検査室に収益性を求めることになり、診療報酬全体で8%、一般検査を30%の削減につながりました。欧州の公共調達制度であるMEAT(Most Economically Advantegeous Tender program)も、公的医療機関の調達に関して同様の影響を与えています。


35% 生産性が非効率

臨床検査室では、装置やベルトコンベアが絶えず早い流れで動き続ける中、人と技術が互いに連携し、次々と複雑かつ重要な作業が行われています。ある調査によると、病院スタッフの時間の35%は、患者にとって価値のない作業に費やされいると指摘しています。[7] これを減らすことができれば、営業利益率が9%近く向上する可能性がある、とも指摘しています。

課題に対処するための鍵は、臨床検査室の労働生産性を向上させることです。では、「どのように」すればよいでしょうか。

大きな視点では、次の3つの重要分野に焦点を当てることで生産性を向上できます:

  • 人とプロセス
  • ハードウエア
  • デジタル化
労働生産性の効果測定
労働生産性の測定:検査室スタッフの効率性について洞察となる指標

医療費の60%を人件費が占めているという現実[8]に目を向けると、ワークフローを最適化する場合、人やプロセスから始めるのが理にかなっています。

多忙を極める検査室の管理をしていると、大局的な視点でどのような変更が必要かを把握する時間すら取れません。検査室では、新しい技術を導入したり、新しいテストを展開するのがきっかけとなって、プロセスや作業項目が改善できることがあります。その際、リーン(Lean:無駄を省く)を実践することより、ワークフローの大幅な改善につながります。

リーンとは、継続的な改善を目指すプロセスのことです。徐々に最適化を行っていくだけでも、目に見える成果が得られます。検査室の現在のワークフローを慎重に観察して分析することにより、リーン改革案として以下のようなことが可能になります。

  • 無駄なステップや動きをなくす
  • スタッフがより効率的に移動できるように、ワークフローに合わせて機器を配置する
  • 一貫性のある標準化ができるよう、オートメーション化をする前にプロセスを最適化する
     

検査室スタッフのワークフロー最適化
ワークフローの最適化と検査室の完全自動化の前後でのスタッフの移動についての比較

臨床検査室は、社内のリーンの取り組みを管理したり、Six Sigmaの認定リーン・ラボ・コンサルタントとして活動することができます。検査室にとって有用なこととしては、以下のようなものがあります:

  • スピードを上げる
  • 生産性を高める
  • 効率を改善する
  • さらなる品質の向上
  • コストの削減
  • エラーの低減

リーンの取り組みにおいて、人事に関するトピックが頻繁に取り上げられます。リーンのプロセスとして、まず、チームは検査室内の各ステップを確認し、ひとつひとつに求められる要件を詳しく把握します。これにより検査室は、スキルレベルに最も適した、つまり「資格や技能に見合った」分析のためにスタッフを集中させることができます。そして費用削減、生産性の向上だけでなく、スタッフの満足度も大幅に向上することができます。

60%の時間をセーブしたオンラインモバイルトレーニング

この他にも、臨床検査室スタッフが各自の役割について十分なトレーニングを受けているか、また、必要に応じて他のスタッフの分もカバーできるよう訓練されているかが話題になります。十分なトレーニングを受けているかどうかで、効率の向上はもちろん、大規模な検査室をはじめ複数拠点を持つ検査センターにおいても、需要の変化にスムーズに対応できるようになります。

座学でのトレーニングや講座の受講は高価であるばかりか、短期間であっても検査室勤務から離れる必要があります。Eラーニングなら、忙しいスケジュールに合わせて受講でき、トレーニング時間を最大で60%短縮できます。たとえば、米国フロリダ州で9病院と50の外来施設を持つバプティスト・ヘルス・サウスフロリダ・ネットワーク(Baptist Health South Florida Network)は、モバイルにも対応したオンラインでトレーニングと人事査定を実施し、臨床検査技師30人のトレーニング時間を600時間も短縮できました。
 


NHS Taysideのワークフロー最適化について(Jeff Appleyard)
NHS Taysideのワークフロー最適化について(Jeff Appleyard, Siemens Healthineers)

ハードウェア
自動化されていない検査室でのマニュアル検査は、エラーが発生しやすいばかりか、根気のいる反復作業が多くあります。また、マニュアルによる検査作業は、検査技師ごとや研究室ごとに異なり、幅広く多岐にわたります。検査室のオートメーション化は、KPIを劇的に向上させるだけでなく、プロセスの標準化によって一貫性を担保しつつ、根拠のないばらつきを軽減します。

多くの経営層や管理者層は、オートメーションと聞くと分析(テスト)プロセスに着目しがちです。しかし、無駄が最も多いのは、分析(テスト)の前後の処理ステップです。そのため、ワークフロー分析を行う際は、プロセス全体を検討するのが効果的です。

オートメーション化は、血液の採取から検証結果の報告、サンプルの保管と廃棄まで、人がチューブに接触するのは一度のみ(場合によっては全く触れることなく)エンドツーエンドのプロセスをサポートします。

ラボにおけるプロセスオートメーションのメリット:

  • ターンアラウンドタイム(結果報告時間:TAT)の短縮
  • 資格レベルの高いスタッフの有効活用が進み、重要サンプルの検証や調査をはじめ、高度で複雑なタスクに集中できる
  • 少人数で効率的に、より多くのテストを実行することで、生産性を向上
  • 手作業によるエラーを減らし、品質管理(QC)を自動化することで全体の品質を向上
  • 将来的な成長を見すえた柔軟性と拡張性の向上
  • スタッフによるサンプル処理の削減もしくは廃止による、バイオハザードリスクの低減

 


Nonautomated laboratory Testing includes manual error prone arduous tasks
Case Study: Banner Health

デジタル化
デジタル化 臨床検査室のデジタル化は、検査プロセスの管理を改善し、ワークフローおよび臨床アウトカムの向上につながります。例として、

  • 自動検証:人が介在することなく、患者の結果を自動的に確認し、送信する
  • 在庫管理:試薬や消耗品の使用状況をリアルタイムでトラッキングし、チェックアウトや発注までを自動で
  • 検査室のプロセス管理:臨床検査装置のパフォーマンスを一元的に監視し、あらゆる場所でのテストをはじめ、装置の運用、その他機器の使用状況、オートメーションやITまで、組織全体で表示および制御できる
     

 

煩雑なタスクがエラーにつながりやすい、自動化されていない検査室でのテスト
ケーススタディ:NHS Tayside
  • QCとキャリブレーションの自動化:人の介在なく分析器のキャリブレーションと品質管理が可能で、オペレーターの時間節約、廃棄物の削減、品質の向上、納期短縮につながる
  • データの集中管理:ネットワーク上すべての診断システムを網羅した、標準化された検査プロトコル、ワークフロー管理と結果レポート
  • リモートでのシステムサポート:予知保全のための継続的な機器監視、およびリモートによるサポートで人の介入を最小限に抑え、システムの稼働時間を最大化
  • ビジョンシステム:カメラとソフトウェアがスマートに特性を把握。サンプル一本ごとに形状やキャップ、ラベリングに基づいて緊急度や完全性、目印を確認し、コンテナに配備する。
     

人、プロセス、デジタル化に着目すれば、臨床検査の生産性は向上する
ケーススタディ:Klinikum FrankfurtHöchst

臨床検査はケアの質や財務的な観点の両面から、医療システムにとって重要なものですが、検査についての作業の増加、スタッフの不足やスキルの低下、診療報酬の減額や激しい競争による収益の減少に備えるため、臨床検査室にはさまざまな変革が必要だと考えられています。

人、プロセス、機器、およびデジタル化に焦点を当てることによって、臨床検査室は以下のようなメリットを享受できます:

  • 労働生産性の向上
  • 迅速な結果報告
  • コストの削減
  • エラーの低減

世界中の多くの臨床検査室では、リーン手法が取り入れられています。これは無駄を省くもので、スタッフのトレーニング、オートメーション化、スマートなソフトウェアを採用するなどを通じて生産性を向上させ、臨床検査の効率を高めています。
 

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