マネジメント・サマリー
- 課題:利用できるデータ量の増加、ストレージやコンピューターなど関連コストの低下、データ分析による可能性の増大などの背景もあり、今後さまざまな変化が予想される医療業界において、デジタル化は加速の一途をたどるでしょう。
- ソリューション:遠隔医療への一歩と言われている健康アプリの登場など、最近の例は、デジタル化の第2波が勢いを増していることを示しています。
- 結果:医療機関においては進行中のデジタル変革を意識し、自組織の事業ニーズを分析的アプローチや新しいデジタル化戦略のなかに、どう落とし込んでいくかを検討する必要があるでしょう。
誇張からリアルへの転換点
ビッグデータや機械学習、IoTはもちろん、モバイル機器にインストールされた患者用プラットフォームやアプリなども、日々、医療のあり方を変えつつあります。医療業界はいま、デジタル化のセカンドウェーブに直面しています。これは時に「ヘルスケア 4.0」とも呼ばれます。デジタル化は技術的側面だけでなく、電子カルテに画像データや臨床検査データを保存することも含まれます。また、デジタル化は、医療全体のプロセスを管理・設計するなど仕組みそのものを変える役割を持ち、医療従事者のビジネスモデルに影響を与えています。ロンドンで開催されたHealthcare Business International 2017では、具体的な事例を用いて説明がありました。[1]
デジタル化の発展をけん引するのは、広範な分野で膨大な量のデータを利用できるようになったこと、ストレージやコンピューター関連コストの大幅な減少、さらに人工知能の進歩などが背景にあります。専門家によると、医療業界は他に比べてデジタル化が大きく遅れているものの、その分、今後数年間で劇的な変化を遂げるだろうと言われています。[2]
「これまでのところ、医療分野におけるデジタル化や解析については誇張気味で、現実味のないものでした。しかし、波は確実に押し寄せているのです」と、McKinseyのシニアパートナー Nicol Henke氏は基調講演で述べました。[3] 将来性のあるアプリケーションとしては、保険会社の正確なリスク評価から、敗血症など予後が複雑な疾患を抱える患者一人ひとりに対し再入院を予測するものまで、多岐にわたるでしょう。Henke氏は「ビジネスニーズを分析的言語に変換してデータの価値を把握するために、数学者のような人が医療機関から求められるようになるでしょう」と語り、「これは新しい働き方にもつながるのです」と付け加えました。
遠隔診療は新しいベンチマークになるでしょうか?
デジタル化は近年、診断領域において新しい医療モデルを形成しつつあります。Telemedicine Clinic社CEOのAlexander Böhmcker氏によると、サービスプロバイダーの同社が受託する遠隔での放射線画像診断の件数は、2010年の10万件から2016年には約45万件に増加しました。[4] 現在、Telemedicine Clinic社は英国、スカンジナビアをはじめヨーロッパにある120病院に読影レポートサービスを提供していますが、シドニーにも支店を構え、夜間の緊急検査の際も時差を利用し、つねに高品質で効率的な放射線画像読影サービスを提供できる体制を整えています。
遠隔医療ネットワークでは、モダリティや身体の部位に応じて、高度な専門知識を持つ専門医にいつでも画像を送信することができるため、将来的には、遠隔もしくは国境を越えた放射線医学は、新たな標準となりうるでしょう、とBöhmcker氏は語っています。さらにBöhmcker氏によると、遠隔での放射線画像診断市場は、2019年に世界で約40億USドルに達するという予測も出ています。
一方、デジタル化の発展により、患者の期待や行動パターンにも変化が見られています。フィンランドで病院運営に関するサービスを行うMehiläinen社のCEO、Janne-Olli Järvenpää氏は、ある医療系アプリを紹介しました。このアプリでは患者の電子カルテを統合するだけでなく、医師や療法士とのアポイントもアプリ上ででき、処方箋がオンラインで記入された後、患者の自宅に薬が届けられるのです。診療予約もアプリを使ってできるようになる予定とのことです。費用の一部は保険会社と使用者が負担し、運営会社にその一部が支払われます。[5]
いまの医療体系にデジタルアプリを直接介在させていくことは、間違いなく医療経営の成功にとって不可欠であるとJärvenpää氏は述べました。これに加え、一般的にフィンランド社会は、新しい技術を積極的に受け入れる傾向があります。2016年の夏にMehiläinen社のアプリがフィンランド国内でリリースされたとき、最初の数週間でモバイルゲームの「Pokémon Go(ポケモンGo)」よりも多くのダウンロード数が記録され、メディアで話題になりました。
著者について
Martin Linder:ドイツ・ベルリンを拠点に活動するサイエンス・ライター。医学博士号を取得後、ジャーナリズムの道に進む。現在、ドイツやスイスの新聞・雑誌に寄稿しています。