京都医療センター ハイブリッド手術室

多診療科による活用でフル稼働する
ハイブリッド手術室

京都医療センター 脳神経外科

2022-09-12

京都市南東部の伏見区にある京都医療センターは、地域医療の発展に力を注いでいます。2021年12月に、さまざまなハードルを乗り越えてハイブリッド手術室を導入した同院では、多くの診療科が画像支援下手術を行い、非常に高い稼働率を誇っています。今回は、ハイブリッド手術室を積極的に活用した手術を実践されている脳神経外科診療科長の福田俊一先生にお話をうかがいました。

京都医療センター脳神経外科福田先生

脳神経外科診療科長 福田 俊一 先生

当科は、脳神経内科とともに1日24時間、1年365日を通じて専門医の診療を受けられる脳神経センターを構築しています。脳神経外科の診療は脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷、脊髄疾患など脳神経外科領域全般に亘るのですが、京都医療センターには救命救急センターが併設され伏見を中心とした南京都地域における救急医療の中核施設に位置づけられていることから、救急医療にも取り組んでいる点が当科の特徴の1つと言えます。救急医療の対象となる主な疾患には急性期脳卒中、重症頭部外傷、良性を含む脳腫瘍による急性麻痺や意識障害が挙げられます。もちろん、通常診療では未破裂脳動脈瘤や頚動脈狭窄症などに対する待機手術や、脳腫瘍に対する集学的治療における開頭術、化学療法あるいは緩和ケアなども行っています。また、当センターの手術件数はそれほど多くはありませんが、大がかりな手術に限れば、京都大学脳神経外科関連施設の中でもその数は上位になります。臨床研究に取り組んでいる点も特徴に挙げられます。国立病院機構に所属しているので全国レベルでの共同研究が可能であり、複数の臨床研究を代表しています。また、臨床研究センターで動物実験も行える環境が整っており、現在は私の専門領域である脳動脈瘤を対象とした薬物治療についての研究を進めています。

 脳神経外科が関与する疾患には、緊急に治療 を行う必要のあるもの(急性脳伷塞、クモ膜下出 血、重症頭部外傷など)と無症候性で手術も含めて慎重な検討を必要とするもの(未破裂脳動脈 瘤、無症候性頸動脈狭窄、良性脳腫瘍など)があ ります。前者について、当科では血管内治療と開 頭術による直達治療のいずれが適しているか、 エビデンスを考慮するとともに、患者さんごとに判断しています。例えば、クモ膜下出血の場合は、優位性を示すコイル塞栓術の施行の可能性から検討を始めます。未破裂脳動脈瘤については、血管内治療と開頭術の成績に優劣はありませんので安全性を優先しています。このように、患者さんごとに有効性と安全性を検討し、メリットと デメリットについてご家族も含めて説明し、十分に話し合った上でどの治療法を選ぶか決定しています。その際、私たちが自分の得意な治療法に固執して勧めるようなことがあってはならないと考えています。

当科では脳腫瘍の治療を行うことが多く、病巣が深部に存在するなどの難しい手術が求められる場合にはナビゲーションシステムによる支援が必要です。特に、腫瘍が頭蓋底にある場合は周囲組織との関係から適切な切除範囲を術中に判断しなければなりませんので、3D画像をリアルタイムにチェックする必要があります。今では、このような手術を行う際にハイブリッド手術 室を使うようにしています。先日、椎骨動脈が通る頸椎横突孔が狭窄し、頸部の捻転によって椎骨動脈が頸椎に圧迫されて脳伷塞を起こした症例を経験しました。こういった症例では、椎骨動脈周囲の頸椎骨を削り取る必要がありますが、 デバイスのわずかな操作ミスが椎骨動脈損傷による大出血に繋がってしまいます。そこで役立ったのがハイブリッド手術室です。3D画像を用いて術中に血管と椎骨の位置関係を確認しつつ、ナビゲーションシステムを使って椎骨動脈を損傷することなく周囲の骨化組織の摘除に成功しました。手技後に脳血管撮影で狭窄が完全に解除されていることを確認した上で手術を終了しました。このような症例は、ハイブリッド手術室でなければ成し得なかったと考えています。当 該症例を通じてハイブリッド手術室の有用性を感じています。

そもそもARITS pheno以外に血管撮影装置自体の使用経験がありませんので比較対照ができないのですが、第一印象は大きな装置だなというもので、ハイブリッド手術室では術中の 動線を熟慮する必要があると感じました。慣れていないせいもあって、今のところ清潔化も含めて撮影に時間を要しています。頸椎を撮影した際の画像には、頭部固定ピンによる金属アーチファクトの影響がないため画質も良好で、術前CTと比較しても遜色ありませんでした。一方 で、頭部の撮像の場合はピンによる金属アーチファクトの影響を受けてしまいます。また、側臥位での脳腫瘍手術では手術台の高さ、頭部固定による制約から、術者は体勢の自由度をかなり奪われるというのが忖度なしの評価です

ハイブリッド手術室を使いたいと考える疾患には、急性期脳伷塞、脳動脈瘤、頭蓋底腫瘍、動静脈奇形を伴う脳血管障害などが挙げられます。特に、急性期脳伷塞に対する血栓回収療法は日本脳卒中学会からの要請もあり、24 時間体制で準備を整えていますが、頸動脈狭窄を伴う場合は外科的血栓除去療法と並行する、まさにハイブリッド治療を行うことが有用な場合があります。頸部が広い動脈瘤の場合、血管内手術のみではコイルが瘤外にはみ出してしまい、うまく治療できないことがあります。このような症例では、ハイブリッド手術室で開頭し、クリップで頸部を狭くしてからコイル塞栓を行うことが有用です。また、深部にある破裂動脈瘤のクリッピングの際に、血管内でバルーンを用いて破裂動脈瘤の母血管を一時遮断することも有用です。頭蓋底腫瘍に対しては、脳神経外科が上方から、耳鼻咽喉科頭頸部外科が下方からアプローチして腫瘍を除去し、欠損部には形成外科が腹部の筋肉を移植する手術を行っています。この術式に、従前は 30 数時間を要していましたが、ハイブリッド手術室を使うことで腫瘍と周囲組織を正確に視認できるようになり、総手術時間が 5 時間ほど短縮できています。患者さんにとっては治療に伴うリスクの低減が、医療提供者にとっては疲労の軽減がハイブリッド手術室導入のおかげでもたらされています。

小型化と周辺機器との有機的な結合を望みます。ナビゲーションシステムや医療用顕微鏡とX線透視・撮影装置の画像が連動できれば、より短時間で精細な画像が得られ、その分、被ばく量の低減にも繋がると思います。また、前述したように、頭部の3D画像からの金属アーチファクトの除去が喫緊の課題です。私たちも、どう固定すればピンの影響をできるだけ排除できるのかを考えていますが、X線透視・撮影装置側における処理技術の改良にも期待しています。

お話ししましたように、目下、脳動脈瘤に対する薬物治療や血流解析の臨床研究を行っています。脳動脈瘤は血流を感知して増大することから、CFD解析(計算流体力学解析)で捉えた血流と、薬剤によって抑制された瘤の血流感知能との関係性を明らかにしようというものですが、これをリアルタイムに行うにはMRIが最も有用だと考えています。Siemens HealthineersにはMRIに関するノウハウの蓄積があるはずですから、サポートしてくれることを大いに期待しています。

(2022年6月10日取材)