Photon-counting CT - NAEOTOM Alpha
「口唇腫瘤の精査で偶然発見された造影成分を伴う腎結節」
東海大学医学部 専門診療学系 画像診断学 市川 珠紀 先生

2023-08-03
CT月間臨床画像東海大

口唇腫瘤の術前精査で撮影された造影CTで両腎嚢胞が認められ、右腎嚢胞の一個に造影効果が疑われた。胸部から上腹部は単純CTしか撮影されておらず、仮想単純画像を作成した。通常画像(70 keV)に比し低エネルギーレベル(40 keV)の仮想単色X線画像では結節内の造影効果が強調され、ヨードマップ画像でも明瞭であった。口唇腫瘍の転移の可能性は低いが、非定型嚢胞や腎細胞癌の可能性があり、精査が必要である。


患者は80代男性で、左上口唇腫瘤の精査のため、頸部単純CTと頸部から上腹部の造影CTが撮影された。前立腺癌で前立腺全摘の既往があるが、当院でCTやMRIを撮影されたことはない。

図1a. 造影CT(70 keV)横断像:右腎背側に突出する最大径12mmの低吸収域結節(矢印)があり、内部に淡い造影効果が疑われる。
図1b: 仮想単純横断像:既知の結節の辺縁部は腎実質と同吸収またはやや高吸収域を示し、中央部は低吸収域である。
図1c: 造影CT(40 keV)横断像: 結節中央部の造影効果は70 keV画像(図1a)に比し明瞭となっている。
図1d: ヨードマップ画像では中央部のみの造影効果が明らかである。
図1a-dは0.4 mmスライス幅の画像であり、小さな病変にもかかわらず結節の境界は鮮明に描出されている。
右腎の小結節の辺縁には造影効果がなく、やや高吸収を示す液体または造影効果の少ない充実性成分が疑われる。中心部の造影効果は明白であり、腎細胞癌やBosniak 分類カテゴリーIII以上の非定型嚢胞の可能性がある。辺縁部が腎実質より淡い高吸収域を示す可能性があり、脂肪成分の乏しい血管筋脂肪腫も鑑別に残るが、矢状断像(非提示)で結節と腎実質との境界は丸く、血管筋脂肪腫より腎細胞癌が疑われ、主治医に精査の必要性を伝えた。

日常診療では、頭頚部や胸部病変のCT撮影時に膵臓・肝臓・腎臓などの上腹部の臓器に偶発的に病変が発見されることは少なくない。通常転移病変の検索のため造影CTのみの撮影がほとんどで、偶発病変の質的診断は困難である。今回PCCTで撮影されていたため、0.4 mmのスライス幅で観察でき、仮想単純画像を得られ、スペクトラル解析(仮想単色X線画像やヨードマップ画像)が可能であった。この症例では他に多発腎嚢胞も認められたが、口腔外科などの腹部疾患に不慣れな臨床科医に対し、今回のような微小ながら精査の必要な腎結節を指摘することが画像診断医の役目である。通常のCTでも1 mmのthin slice画像を確認できるが、造影域が少ない結節では0.4 mm像での観察は重要であろう。PCCTでは高精細画像が得られるので多断面画像の観察が可能であり、より診断能が向上すると思われる。

販売名:ネオトム Alpha
認証番号:304AIBZX00004000